PubMedID 30810528
タイトル Two distinct mechanisms target the autophagy-related E3 complex to the pre-autophagosomal structure.
ジャーナル Elife, 2019 Feb 27;
著者 Harada K, Kotani T, Kirisako H, Sakoh-Nakatogawa M, Oikawa Y, Kimura Y, Hirano H, Yamamoto H, Ohsumi Y, Nakatogawa H
  • Atg16複合体のPASへの局在化機構
  • Posted by 東京工業大学・生命理工学院 中戸川 仁
  • 投稿日 2019/04/21

私たちは最近、Atg12-Atg5-Atg16複合体(以下、Atg16複合体)をpre-autophagosomal structure (PAS)へ局在化させる新たなメカニズムを発見し、その成果がeLife誌に掲載されましたので、紹介させていただきます。

  Atg16複合体は、PASに局在化し、Atg8のユビキチン様結合反応(PE化)を促進するE3酵素複合体です。これまでに、出芽酵母ではAtg16がAtg21との相互作用を介してAtg16複合体をPASに局在化させること、哺乳類ではATG16LがWIPI2との相互作用を介してATG16L複合体をオートファゴソーム形成サイト(PASと言っても良いと思いますが)に局在化させることが明らかにされていました(Atg21とWIPI2は共にPI3K複合体Iが産生するPI3Pに結合すると考えられます)。しかしながら、出芽酵母では、ATG21を欠失させてもAtg16複合体のPASへの局在化およびオートファジーの活性は部分的な低下に留まります。さらに、本論文の冒頭で、ATG14を欠失させた場合も、Atg16複合体のPASへの局在は完全には失われないことを示しました(Atg14/PI3PはAtg16複合体のPAS局在に必須と思っていたので少し驚きました)。さらに、Atg16複合体のPAS局在には不要とされていたATG12をATG21あるいはATG14と同時に欠失させると、Atg16複合体のPASへの局在は完全に消失しました。これらのことから、Atg16複合体のPASへの局在化には、既知のPI3P-Atg21-Atg16経路に加えて、PI3Pには依存せずAtg12に依存する未知の経路が存在することが示唆されました。本論文では最終的に、Atg12のN末端領域(ユビキチン様ドメインのN末端側の領域。E3活性には不要。)がAtg1複合体のサブユニットであるAtg17と相互作用することにより、Atg16複合体のPASへの局在化機構の一翼を担っていることを明らかにしました。Atg21とAtg12のN末端領域を両方欠失させるとAtg16複合体のPASへの局在は全く見られなくなり、オートファジーも完全に停止します。この新たに見つけたAtg1複合体-Atg12経路でリクルートされるAtg16複合体には、PI3P-Atg21-Atg16経路でリクルートされる同複合体と同様に、Atg8のPE化の促進という役割がある他、Atg1複合体によるPASの足場形成(Atg17-GFPの輝点形成)を促進するという新たな役割もあることが示唆されました。
  哺乳類では、(ATG12ではなく)ATG16LがULK複合体のFIP200と相互作用すること、この相互作用はATG16L複合体の隔離膜への局在化に重要であることが報告されています。したがって、出芽酵母と哺乳類のどちらでも、具体的なメカニズムは異なりますが、PI3P-Atg21/WIPI2を介する経路とAtg1/ULK複合体との相互作用を介する経路の2つの経路でAtg16/ATG16L複合体がPAS/隔離膜にリクルートされるということになります。哺乳類では、2つの経路の関係は明らかになっていないと思いますが、酵母と同様に、後者の経路でリクルートされるATG16L複合体はULK複合体の集積を促進する可能性もあるのではないでしょうか。
  PASの構築機構(オートファゴソーム形成における"nucleation"のステップ)を理解するには、今後もこうしたタンパク質間相互作用レベルでの解析(相互作用のダイナミクスや制御を含む。当然、脂質や膜とタンパク質との相互作用も)を積み重ねていく必要があります。

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  • 東京大学大学院医学系研究科分子生物学分野  水島昇  2019/04/22

実は私が1997年に大隅研でATG12(当時APG12)をbaitととした酵母two-hybridスクリーニングを行った際、多数のATG16(当時YMR159Cという未知遺伝子)の他にATG17(当時YLR423Cという未知遺伝子)が1クローンだけとれていました。ちょうど鎌田さんがAtg1結合因子としてAtg17を発見していた時だったので、何かあると思いつつも記憶の深いところに沈んでいました。結局意味があったのですね! 酵母ではatg8欠損株に比べてatg12欠損株の表現型(オートファジー不全)の方がシビアであるように見えたので(今となっては正しくないかも知れませんが)、Atg12にはAtg8に依存しない機能が何かあるはずだと思っていました。これが答えだったのかと思って納得しました。

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  • 東京工業大学・生命理工学院  中戸川 仁  2019/04/22

水島先生、コメントありがとうございます。ちょっとしたことでも昔からの疑問がふっと解ける瞬間って良いですよね。Atg12のN末端領域も花田さんの時代から何をしているのかわからない領域だったので、ここでパチッとはまってくれてすっきりしました。