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PubMedID 25468960 Journal EMBO J, 2014 Dec 2; [Epub ahead of print]
Title Bulk RNA degradation by nitrogen starvation-induced autophagy in yeast.
Author Huang H, Kawamata T, ..., Ohsumi Y, Fukusaki E
東京工業大学 フロンティア研究機構   大隅 良典 研    川俣 朋子     2014/12/05

オートファジーによるRNA分解機構
オートファジーによるRNA分解についての論文が最近受理されましたので、ご紹介させていただきます。

電子顕微鏡レベルでは、昔から酵母でも動物細胞においても、オートファゴソームにリボソームがたくさん含まれている様子が確認されています。リボソームは、細胞内で最も量が多く、RNAとタンパク質が約1:1の超分子構造体です。オートファジーでタンパク質と匹敵する量のRNAが分解されることが示唆されていたにも関わらず、その分解機構については、関与するRNaseも含めて、これまで全くブラックボックスのままでした。

私は、大隅研究室で学位を取得した後、ポスドクではオートファジーとは全く違う分野に進み(注1)、いまからちょうど3年前に再び大隅研に戻り、今度は博士課程時代の研究(注2)とは全く違う研究をしたいと思いました。そこで、オートファジーの生理機能をもう一度酵母できちんと解析したいと考えていた大隅先生のもと、メタボロミクスを専門とする大阪大学福崎研究室と共同研究として、修士(現博士)課程のハンハンさんと一緒にメタボローム解析をすることになりました。

オートファジーが起こると細胞内でどんな代謝変化があるのかを調べて見ると、リボヌクレオシド(アデノシン・グアノシン・シチジン・ウリジン)の一過的な変化がありました。これは、RNAがオートファジーによって分解されて出てきた化合物に違いないと考え、まずはこの現象を追ってみたいと思いました。これがすべての始まりで、オートファジーによるRNA分解機構を一気に明らかにすることができました。

窒素飢餓等によりオートファジーが誘導されると、オートファジーによって液胞に運ばれたRNAは、最初にRNase T2 ファミリーのRNaseであるRny1により液胞内で切断されます。Rny1は、塩基の種類にあまり依存しないエンドヌクレアーゼで、RNA分解の結果として3’-NMP(3’-AMP, GMP, UMP, CMP)を生じます。3’-NMPはただちにヌクレオチダーゼPho8により(注3)ヌクレオシドになります。ヌクレオシドは、おそらく液胞から細胞質に輸送され、細胞質に局在するヌクレオチダーゼ(Urh1とPnp1)によりヌクレオベース(塩基)まで分解され、さらにこれらのエンドプロダクト(ウラシルとキサンチン)は、おそらくほとんど再利用されることなく、細胞の外へ放出されていくということがわかりました。

上記の研究から、いろいろなことを推論・議論することができます。

オートファジー依存的なRNA分解産物が、5’-NMPではなく3’-NMPであるのには意味があるのではないかと考えています。おそらく、細胞内の5'-AMP/5’-ATP ratio(エネルギーチャージ)を一過的にでも壊さないために、3’-NMPはサイレントな化合物として適しているのではないかといったことも議論しております。

オートファジーは窒素飢餓で強く誘導されます。しかし、窒素飢餓時に、窒素化合物であるプリンやピリミジン塩基がどんどん外に出て行ってしまうということがわかった時は、本当に驚きました。

この仕事は、私にとって大変思い入れがあるものになり、オートファジーの研究者の方のみならず、異分野の方々とも積極的に議論させていただきたいと思っております。今後ともどうかよろしくお願いたします。

 (注1)small RNAの作用機序を生化学的に解析する研究分野(東大分生研・泊研究室)。約3年間で、RNA生化学を基礎から学ぶことが出来ました。結果的に今回のオートファジーによるRNA分解の研究に大変役立ちました。
(注2)このproteolysisフォーラムに、以前投稿させていただきました。
Pubmed ID 18287526  http://proteolysis.jp/forum/thread.php?id=81
(注3)酵母のオートファジーのアッセイ系で、現大阪大学の野田先生が大隅先生と共に開発されたいわゆる「ALP assay」は、アルカリフォスファターゼPho8を改変した系(pho8delta60)であり、世界中で広く用いられております。今回の論文ではPho8をヌクレオチダーゼとして同定しております。アッセイ系として用いたPho8が、実はオートファジーの過程で働く責任酵素-ヌクレオチダーゼだったなんて、なんとも不思議なオートファジー研究の運命を感じました。

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最後にもう一つ、宣伝させてください。
農芸化学会の和文誌である「化学と生物」のセミナー室で、オートファジーの連載が2014年度の4月号から始まっております。主にオートファジーの生理学的な機能にフォーカスしています。私も執筆させていただきましたので、そちらも合わせて御覧ください。
   
   本文引用

1 東京工業大学 フロンティア研究機構   大隅 良典 研  川俣 朋子 オートファジーによるRNA分解機構 2014/12/05
オートファジーによるRNA分解についての論文が最近受理されましたので、ご紹介させていただきます。

電子顕微鏡レベルでは、昔から酵母でも動物細胞においても、オートファゴソームにリボソームがたくさん含まれている様子が確認されています。リボソームは、細胞内で最も量が多く、RNAとタンパク質が約1:1の超分子構造体です。オートファジーでタンパク質と匹敵する量のRNAが分解されることが示唆されていたにも関わらず、その分解機構については、関与するRNaseも含めて、これまで全くブラックボックスのままでした。

私は、大隅研究室で学位を取得した後、ポスドクではオートファジーとは全く違う分野に進み(注1)、いまからちょうど3年前に再び大隅研に戻り、今度は博士課程時代の研究(注2)とは全く違う研究をしたいと思いました。そこで、オートファジーの生理機能をもう一度酵母できちんと解析したいと考えていた大隅先生のもと、メタボロミクスを専門とする大阪大学福崎研究室と共同研究として、修士(現博士)課程のハンハンさんと一緒にメタボローム解析をすることになりました。

オートファジーが起こると細胞内でどんな代謝変化があるのかを調べて見ると、リボヌクレオシド(アデノシン・グアノシン・シチジン・ウリジン)の一過的な変化がありました。これは、RNAがオートファジーによって分解されて出てきた化合物に違いないと考え、まずはこの現象を追ってみたいと思いました。これがすべての始まりで、オートファジーによるRNA分解機構を一気に明らかにすることができました。

窒素飢餓等によりオートファジーが誘導されると、オートファジーによって液胞に運ばれたRNAは、最初にRNase T2 ファミリーのRNaseであるRny1により液胞内で切断されます。Rny1は、塩基の種類にあまり依存しないエンドヌクレアーゼで、RNA分解の結果として3’-NMP(3’-AMP, GMP, UMP, CMP)を生じます。3’-NMPはただちにヌクレオチダーゼPho8により(注3)ヌクレオシドになります。ヌクレオシドは、おそらく液胞から細胞質に輸送され、細胞質に局在するヌクレオチダーゼ(Urh1とPnp1)によりヌクレオベース(塩基)まで分解され、さらにこれらのエンドプロダクト(ウラシルとキサンチン)は、おそらくほとんど再利用されることなく、細胞の外へ放出されていくということがわかりました。

上記の研究から、いろいろなことを推論・議論することができます。

オートファジー依存的なRNA分解産物が、5’-NMPではなく3’-NMPであるのには意味があるのではないかと考えています。おそらく、細胞内の5'-AMP/5’-ATP ratio(エネルギーチャージ)を一過的にでも壊さないために、3’-NMPはサイレントな化合物として適しているのではないかといったことも議論しております。

オートファジーは窒素飢餓で強く誘導されます。しかし、窒素飢餓時に、窒素化合物であるプリンやピリミジン塩基がどんどん外に出て行ってしまうということがわかった時は、本当に驚きました。

この仕事は、私にとって大変思い入れがあるものになり、オートファジーの研究者の方のみならず、異分野の方々とも積極的に議論させていただきたいと思っております。今後ともどうかよろしくお願いたします。

 (注1)small RNAの作用機序を生化学的に解析する研究分野(東大分生研・泊研究室)。約3年間で、RNA生化学を基礎から学ぶことが出来ました。結果的に今回のオートファジーによるRNA分解の研究に大変役立ちました。
(注2)このproteolysisフォーラムに、以前投稿させていただきました。
Pubmed ID 18287526  http://proteolysis.jp/forum/thread.php?id=81
(注3)酵母のオートファジーのアッセイ系で、現大阪大学の野田先生が大隅先生と共に開発されたいわゆる「ALP assay」は、アルカリフォスファターゼPho8を改変した系(pho8delta60)であり、世界中で広く用いられております。今回の論文ではPho8をヌクレオチダーゼとして同定しております。アッセイ系として用いたPho8が、実はオートファジーの過程で働く責任酵素-ヌクレオチダーゼだったなんて、なんとも不思議なオートファジー研究の運命を感じました。

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最後にもう一つ、宣伝させてください。
農芸化学会の和文誌である「化学と生物」のセミナー室で、オートファジーの連載が2014年度の4月号から始まっております。主にオートファジーの生理学的な機能にフォーカスしています。私も執筆させていただきましたので、そちらも合わせて御覧ください。
      
   本文引用


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