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PubMedID 20147545 Journal J Neurosci, 2010 Feb 10;30(6);2177-87,
Title Reevaluation of Neurodegeneration in lurcher Mice: Constitutive Ion Fluxes Cause Cell Death with, Not by, Autophagy.
Author Nishiyama J, Matsuda K, ..., Mizushima N, Yuzaki M
慶應義塾大学医学部生理学  柚崎研    西山 潤     2010/02/15

興奮毒性とオートファジーの関係
最近我々のグループが発表した論文を紹介させて頂きます。

ラーチャー(Lc)は小脳プルキンエ細胞に特異的に存在するδ2型グルタミン酸受容体(GluD2)の点変異により、オートファジーの活性化を伴うプルキンエ細胞の神経変性を生じる突然変異小脳失調マウスです。GluD2は通常イオン活性を持ちませんが、我々のグループは以前、GluD2Lcは恒常的なイオン活性を生じることを報告していました(Kohda et al., Nature Neurosci, 2000)。ラーチャーによる細胞死は、このような過剰なイオン流入による興奮毒性で生じるのか、あるいはGluD2のC末端にnPISTを介して結合するBeclinの遊離による過剰なオートファジーの活性化により生じる(Yue et al., Neuron, 2002)のか不明でした。今回の論文では下記を示しました。

1)GluD2Lcにより誘導されるオートファジーと細胞死は、細胞外からのイオン流入を阻害するとほぼ完全に抑制される。
2)一方、nPIST-Beclinとの結合を阻害したGluD2Lcはオートファジー、細胞死ともに抑制されない。
3)GluD2Lcを発現させた細胞は、細胞内ATPの低下・細胞の腫大・細胞膜の破綻などネクローシスの特徴を示し、また、ATPセンサーであるAMPKのリン酸化の亢進によってオートファジーが誘導される。
4)ラーチャーマウスにおいてオートファジーを欠損させると(Atg5-/-;pcp2-Cre+/-マウス)、プルキンエ細胞の変性は悪化する。

以上のことから、ラーチャーによる細胞死は過剰なイオン流入による興奮毒性により生じると結論しました。また、オートファジーが、ネクローシス過程における細胞内ATPの低下、AMPKの活性化を介して誘導され、神経保護的な作用を持つ可能性を示しました。しかし、オートファジーの活性を上げることにより神経変性を改善できるか明らかにしておらず、今後の検討が必要だと考えています。
   
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