PubMedID |
18544538 |
Journal |
J Biol Chem, 2008 Jun 10; [Epub ahead of print] |
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Title |
Physiological pH and acidic phospholipids contribute to substrate specificity in lipidation of Atg8. |
Author |
Oh-Oka K, Nakatogawa H, Ohsumi Y |
基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門 大隅研究室 大岡 杏子 2008/06/25
Atg8の脂質化における基質選択性について
最近発表した私達の論文を紹介させて頂きます。
Atg8は酵母におけるオートファジーに必須のユビキチン様蛋白質であり、Atg7、Atg3を介して、PEの親水性頭部のアミノ基とアミド結合します。この反応は一村さんらによってin vitroで再構成され、in vivo ではPEのみがAtg8と結合する脂質として検出されたのに対し、in vitroではAtg8はPSとも結合することが示されました。Atg8の哺乳動物ホモログであるLC3に関しても同様の報告がなされており、細胞内ではどのようにしてAtg8/LC3がPEと選択的に結合体を形成するのかについて疑問が残されていました。(最近、花田さんらによって、Atg12-Atg5がin vitroでAtg8のPE化を促進することが示されましたが、PS化もAtg12-Atg5で促進されることが示されています。)
今回我々は、in vitroでの再構成系において、反応液のpHをこれまでの条件であった8.0 (PE化、PS化共に効率良く起こる) から細胞質のpHに近い7.0にすると、Atg8はPEとは(効率は下がるものの)結合するのに対し、PSとはほとんど結合しなくなることを見いだしました。さらに、ゲルシステムを変更することで、Atg8-Atg7、Atg8-Atg3チオエステル中間体を、Atg7, Atg3の活性中心のCysをSerに置換した変異体を用いることなく、検出することに成功し(この方法は、ユビキチンや他のユビキチン様蛋白質の結合反応の解析にも利用できると思います)、Atg8の脂質化反応の律速段階は、Atg3から脂質への転移反応であること、また、このステップが、反応液のpHを下げると、特異的に遅延することを明らかにしました。この転移反応効率の低下は、PE化に比べてPS化に対して特に強く起こり、結果として、中性付近のpHではAtg8はPSと結合しなくなることが示されました。中性付近のpHでは、Atg3自身が本来持つ基質特異性が発揮されるものと考えています。
また、一村さんらは、酸性リン脂質 (ホスファチジルイノシトール (PI) など)をリポソームに加えると、Atg8のPE化が顕著に促進されることを報告していますが、PS化にはこのような効果は見られないこともわかりました。結果として、酸性リン脂質存在下では、PE化の方がより効率よく起こることが明らかとなりました。さらに、酸性リン脂質が含まれると、チオエステル中間体のリポソームへの親和性が特異的に(Atg8, 7, 3単独の親和性は変化しない)上昇することも明らかにしました。一方、PSを含むリポソームでは、酸性リン脂質の有無に拘わらず、チオエステル中間体は酸性リン脂質を含むPEリポソームと同程度に強く結合することが明らかとなりました。以上の結果は、PS自身が、反応の基質であるのと同時に酸性リン脂質としても振る舞うと考えると解釈できます。別の言い方をすれば、PSは酸性リン脂質による促進効果を内在的に有しているにも拘わらず、弱アルカリ性での反応効率はPEよりやや低く、中性付近ではほとんど基質となり得ないと言えると思います。
以上のような結果から、pHと酸性リン脂質という2つの環境的要因が、細胞内でのAtg8の脂質化の基質選択に関わることが示唆されました。今後、さらにこのような可能性を検証するためにも、Atg8のPE 化が何処で起こるのか、その膜の脂質組成を明らかにする必要があります。また、Atg8の結合の相手がPSでなくPEであることの意義についても明らかにしていければと思っています。