PubMedID | 18424911 | Journal | Autophagy, 2008 Sep-Oct;4(5);692-700, | |
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Title | Loss of Pten, a tumor suppressor, causes the strong inhibition of autophagy without affecting LC3 lipidation. | |||
Author | Ueno T, Sato W, ..., Watanabe S, Kominami E |
Autophagy誌7月1日号に掲載の私たちの仕事を紹介させていただきます。
class I PI3-kinaseはインスリンシグナルを受けてAktを活性化するPI(3,4,5)-P3を生成する酵素で、PI(4,5)P2を基質とし、イノシトールの3位をリン酸化します。活性化されたAktから伝達されるシグナルはグリコーゲン合成やトリアシルグリセロール合成を促進させる一方、mTorを活性化することでタンパク合成を促進させ、細胞増殖を推し進めます。PtenはPI(3,4,5)-P3を脱リン酸化させてPI(4,5)-P2を生成するホスファターゼで、Aktのシグナル伝達に対して負の制御を行っています。また、多くのがんでPtenの変異が見つかっており、Ptenの失活→Aktシグナルの恒常的活性化→がん、という因果関係はよく知られるところです。
Aktの下流にmTorが有ることから、Ptenの失活(= PI(3,4,5)-P3レベル上昇)がオートファジーに抑制的に作用することは想像に難くありません。実際、7,8年にCodognoのグループが細胞にPI(3,4,5)-P3を取り込ませるというやや強引な手法や、野生型と変異型Ptenの強発現系を用いて、class I PI3-kinaseがオートファジーを抑制することを報告しています。
秋田大学のグループが作出した肝細胞特異的Pten欠損マウスでを用いて調べたところ、以下のことが明らかになりました。
1.Pten欠損肝細胞の長寿命タンパク分解は、Atg7欠損肝細胞に匹敵するほど強く抑制されていた。電顕による解析からこのオートファジー抑制はオートファゴソーム形成の抑制として説明された。
2.Pten欠損肝では、幾つかのATG遺伝子についてメッセージが半分くらいまでに減少する傾向が有ったが、タンパクレベルでは変化無いかむしろ増加していた。特にLC3についてはI型, II型両方とも野生マウスと差が無く、細胞分画でも違いが認められなかった。
オートファゴソーム膜の材料は準備されているがオートファゴソームが作られにくいという表現型にどのような機構が働いているかは、今後の解析を待たなければなりません。Pten欠損肝細胞のタンパク分解はrapamycin処理でコントロールのレベルまで回復しないので、PI3-kinase下流の別経路シグナル伝達が何らかの作用を及ぼしている可能性も考えられます。