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PubMedID 18544539 Journal J Biol Chem, 2008 Jun 10; [Epub ahead of print]
Title Regulation of calpain activity by c-myc through calpastatin and promotion of transformation in c-myc-negative cells by calpastatin suppression.
Author Niapour M, Yu Y, Berger SA
首都大学東京大学院 理工学研究科 生命科学専攻  神経分子機能(久永研)    佐藤 亘     2008/07/02

c-Mycとカルパスタチンによるカルパイン活性および形質転換の制御
核内転写因子であるc-Mycは、様々な癌においてその制御異常が知られています。また、c-Mycの蓄積がプロテアーゼ阻害剤による細胞のアポトーシスに関わる可能性が示唆されています。c-Mycの代謝はプロテアソームやカルパインによって制御されており、筆者らはこれらのプロテアーゼ阻害剤によるアポトーシスのc-Myc依存性について、c-Myc positive・negativeラットのフィブロブラストを用いて研究しました。その結果、プロテアソーム阻害剤ではなく、カルパイン阻害剤によるアポトーシスにc-Mycが関与することを示しました。さらに、カルパイン阻害とc-Mycとの関連について調べるために、主にc-Myc positive・negativeラットのフィブロブラストを用いてc-Mycの発現の有無によるカルパインの活性を検討しました。その結果、c-Myc positive細胞ではカルパイン活性が上昇していると同時にカルパスタチン量が少ないことを見出しました。別の細胞系列として、HL60細胞におけるc-Mycのノックダウンがカルパイン活性を減少させること、カルパイン阻害剤に対する感受性を低下させることを同時に示しています。さらに、c-Myc positive細胞でのカルパイン阻害剤やCPNS1のノックダウンによりカルパイン活性が低下する一方、カルパスタチンのノックダウンではカルパイン活性の上昇が起こることも示しました。これらのことからc-Mycがカルパスタチンを介してカルパイン活性を制御している可能性についても指摘しています。また、c-Myc positive細胞におけるカルパイン阻害剤やCPNS1のノックダウンによるアポトーシスは細胞分離により引き起こされ、フィブロネクチンによりアポトーシスが阻害されることから、anoikisである可能性を示しました。そして、c-Myc negative細胞におけるカルパスタチンのノックダウンではカルパイン阻害剤に対する感受性が低下するとともにカルパイン活性が回復し、細胞増殖、細胞周期の再分布、細胞の足場非依存性、癌原性の強化を引き起こすことを示唆しています。これらの結果から、カルパイン阻害によるアポトーシスがc-Myc依存性である可能性、カルパスタチンのノックダウンによるc-Myc negative細胞での形質転換の亢進の可能性を示しています。以上のことより、c-Mycの制御異常が関わる癌に対するカルパイン阻害剤の抗癌作用の可能性について考察しています。

私自身は、カルパインによるCdk5活性サブユニット・p35の限定分解と神経細胞死との関連に注目して研究を行っています。最近、Cdk5がc-Mycのリン酸化に関わる可能性を示す論文も発表されており、本論文における結果と合わせて考えるとCdk5とカルパインおよびc-Mycとの関連の有無があるのかどうかについて、興味深いところです。Cdk5およびカルパインと神経細胞死については、カルパインの異常によるp35からp25への限定分解によりCdk5が異常活性化され、Cdk5の基質の過剰リン酸化が神経細胞死と関連すると考えられており、カルパイン阻害剤は神経細胞死抑制のターゲットとしても注目されています。今後もタンパク質分解の異常が神経細胞死とどのように関連していくのか、検討していきたいと考えています。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局