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PubMedID 18570871 Journal Mol Cell, 2008 Jun 20;30(6);678-88,
Title JNK1-mediated phosphorylation of Bcl-2 regulates starvation-induced autophagy.
Author Wei Y, Pattingre S, ..., Bassik M, Levine B
基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門  大隅良典研    壁谷 幸子     2008/07/03

JNK1 は栄養飢餓によるオートファジー誘導にも関わる
 昨今、オートファジーの誘導、シグナル伝達機構については、様々な報告がされている。今回、新たに JNK1 (c-Jun N-terminal kinase 1) が栄養飢餓に応じ誘導されるオートファジーにも働いていることが報告された。従来、JNK1 は、UV 照射、熱ショックなど細胞への様々な刺激により、活性化されることが知られているMAPK である。アポトーシスにおいて、JNK1 が Bcl-2 をリン酸化し、不活性化することが 10 年程前に明らかとなっている。

 著者らは、以前、栄養飢餓条件下で Beclin 1 がオートファゴソーム形成において働く際に、Bcl-2 が Beclin 1 から解離することが必要であることを報告した。今回の報告では、その解離が JNK1 による Bcl-2 のリン酸化によるものであることを報告している。

 これまで、栄養飢餓によるオートファジーのシグナル伝達は、TOR がメインで働いていると考えられていたが、JNK1の関与は、多細胞生物における栄養飢餓シグナル伝達機構の複雑さを表しているのかもしれません。しかし、この論文の中で、TOR について議論が全くされていないのは、残念に思いました。

 まだ他にも、疑問に思う点はいくつかありますが、大隅研での論文紹介が終わったら、そこでの意見も含めてもう一度ご報告したいと思っています。
   
   本文引用

1 東京医科歯科大学  細胞生理学  水島昇 これもひとつの経路なのでしょう 2008/07/04
 もともとBeclin 1はcellular Bcl2よりviral Bcl2に強く結合することが知られていました。例えばJungらによるUVRAGの発見は、cBcl2ではなく、vBcl2のプルダウンを行ったのがミソだったようです。したがって、vBcl2とcBcl2の構造の違いから、Beclin 1、オートファジーとの関係にアプローチしたこの論文は理にかなっていると思います。
 ただ、壁谷さんもお気づきのように、飢餓シグナルの実験をするのに飢餓4時間というのはいかにも長いです。これもひとつの誘導機構の可能性はありますが、オートファジーが30分程度で誘導されることを考えると、Bcl2-Beclin経路の貢献度(特にTor経路との相対的貢献度)については、もっと情報が必要になると思います。
      
   本文引用
2 基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門  大隅良典研  壁谷 幸子 疑問点の追加 2008/07/15
 水島さん、コメントありがとうございました。大隅研での論文紹介で出た意見を3つ追加します。

 1つは、水島さんもご指摘の Beclin 1 と Bcl-2 の相互作用についてです。著者らは、時間的経過で、短時間ではオートファジー (cell survive) がおこり、長時間ではアポトーシス (cell death) が起こるとしていますが、これらは2つのタンパク質の相互作用のみで説明できないように思います。
 2つ目は、JNK が活性化される様々なストレスによっても、オートファジーが誘導されるのか、という点でした。この点に関しては、どなたかご存じであれば、教えていただければ幸いです。
 3つ目は、Bcl-2 がリン酸化される場所です。彼らの報告では、ER とされていますが、それでは、Beclin 1 も飢餓前にそこに局在していることになります。しかし、我々が以前観察したときに、ER 局在は観察されませんでした。彼らの論文中でも、全 Beclin 1の ER 局在量は、半分以下なのが気になりました。
      
   本文引用


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