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PubMedID 17679695 Journal Proc Natl Acad Sci U S A, 2007 Aug 14;104(33);13367-72,
Title Local initiation of caspase activation in Drosophila salivary gland programmed cell death in vivo.
Author Takemoto K, Kuranaga E, ..., Miyawaki A, Miura M
東京大学薬学部遺伝学教室  三浦正幸研    倉永英里奈     2008/07/03

組織退縮時にみられる、パターンを持ったカスパーゼ活性化誘導
 かさねての投稿で失礼致します。本論文は個体での細胞死誘導に関与するカスパーゼ活性の報告です。私たちはFRETを利用したカスパーゼ活性インディケーターを発現するトランスジェニックショウジョウバエを作成し、生きた個体の中で起こる組織除去の際に視られるカスパーゼ活性をライブイメージングした結果を報告しました。ショウジョウバエの変態時には大規模な組織再構築がおこることから、細胞死の研究テーマとして古くから取り上げられてきましたが、崩壊する組織での細胞死パターンに関して取り上げた研究は少なく、組織再構築時に失われる細胞は単にランダムかつ急激に失われるのか、あるいはそのプロセスに精緻な組織崩壊の調節機構が存在するのかは不明でした。私たちはカスパーゼ活性を生体で経時的にモニターすることができる、ECFPとVenusによるFRETを利用したインディケーターSCAT3(Takemoto et al. JCB 2003)を使用し、変態時に見られる唾液腺退縮時のカスパーゼ活性化を生きた個体でモニターしました。唾液腺は囲蛹殻を形成する際に必要なクチクラを分泌する外分泌組織であり蛹化初期に退縮することが知られています。この組織退縮にはステロイドホルモンであるエクジソン刺激によるカスパーゼ活性化が誘導するアポトーシスと、その後のオートファジーが関与するといわれています。SCAT3を唾液腺で発現したショウジョウバエにおけるカスパーゼの活性化を蛹化後観察すると、蛹化後12時間から活性化が見られました。特に興味深い現象として、カスパーゼの活性化は唾液腺前端の2つの細胞から始まり、次第に後方へとその活性化が伝播していくパターンが観察されました。このパターンを作る仕組みはエクジソンの局所からの作用であることを、蛹から取り出して培養した唾液腺へ、局所的または散在的にエクジソンを添加する実験によって明らかにしました。
 以上の実験から局所からのエクジソンサージが唾液腺退縮のトリガーになることは考えられるものの、エクジソン勾配そのものがパターンを形成するのに使われているかについてはさらなる検討を要します。また、唾液腺先端には成虫環状細胞(imaginal ring cell)と呼ばれる成虫での唾液腺を作る増殖細胞があり、この増殖細胞群と死んでいく幼虫唾液腺細胞との相互作用も想定されます。今後、個体の中でおこるパターンを持ったカスパーゼ活性化制御機構のメカニズムを明らかにしたいと考えています。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局