PubMedID |
17765686 |
Journal |
Dev Cell, 2007 Sep;13(3);446-54, |
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Title |
Tumor suppressor CYLD regulates JNK-induced cell death in Drosophila. |
Author |
Xue L, Igaki T, ..., Miura M, Xu T |
東京大学薬学部遺伝学教室 三浦正幸研 倉永英里奈 2008/07/04
ハエのCYLD(癌抑制遺伝子)はdTRAF2を安定化してJNK活性化に関与する
たびたび失礼します。カスパーゼではありませんが、タンパク質分解系で助成期間内に報告した共同研究の論文を紹介させてください。CYLD 遺伝子は,familial cylindromatosis (家族性円柱腫症)において変異が認められたガン抑制遺伝子として同定されていました。これまでの研究でCYLDは、脱ユビキチン化酵素であり、TRAF ファミリー分子の脱ユビキチン化を介して 、TNFRシグナルによって誘導されるNF-κBの活性化を抑制することが報告されていました(Brummelkamp et al. Nature, 2003; Trompouki et al. Nature, 2003; Kovalenko et al. Nature, 2003)。培養細胞を用いた実験では、CYLD はタンパク質分解に関与するK48ではなく、基質のシグナル伝達に関与するK63を介したポリユビキチン鎖を脱ユビキチン化することで、基質であるTRAF2(やTRAF6)依存的なNF-kBの活性化を抑制していることが示されました。つまりCYLD変異は恒常的な NF-κB 活性化を誘導し、腫瘍形成に関与することが示唆されました。一方、2006年に報告されたCYLDのノックアウトマウスの結果から、CYLDはK63ポリユビキチン鎖だけではなく、K48ポリユビキチン鎖を脱ユビキチン化することで、基質の安定化を誘導して胸腺細胞の分化を調節することが報告され、選択される基質や制御する生理機能の多様性が示唆されました(Reiley et al. Nat.Immunol. 2006)。
本論文で共同研究者であるDr. Tian Xuらは、ショウジョウバエにおけるCYLDの機能を調べるためにdCYLDの遺伝子領域を欠失させた変異体を作成して解析を行った結果、dCYLD変異体は酸化ストレスに高感受性を示し、寿命が短く、その短寿命はJNKの過剰発現により抑制されたことから、dCYLDは生理的に誘導されるJNK活性に関与することが示唆されました。また、ショウジョウバエTNF(eiger)が誘導するJNK活性化および細胞死は、dCYLD変異体バックグラウンドで抑制されることが遺伝学的に示されました。また、EigerによるJNK活性化及び細胞死はdTRAF2(ほ乳類TRAF6のortholog)依存的であることを遺伝学的に示し、dTRAF2の脱ユビキチン化はdCYLDによって誘導されることを、ハエ個体への過剰発現系から抽出したLysateのウエスタンにより明らかにしました。この論文ではK48かK63というのは確認していないのですが、dCYLDによるdTRAF2の脱ユビキチン化がタンパク質の安定化に関与していることを示唆するデータと、遺伝学的な表現型の解析から、dCYLDは脱ユビキチン活性によってdTRAF2の安定性を制御することで、eiger依存的なJNKの活性化に関与することが示唆されました。dCYLD変異体をさらに解析し、CYLD変異による腫瘍形成や発生への関与を調べていくことが期待されます。