PubMedID |
18599786 |
Journal |
Science, 2008 Jul 4;321(5885);117-120, |
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Title |
Autophagy Is Essential for Preimplantation Development of Mouse Embryos. |
Author |
Tsukamoto S, Kuma A, ..., Yamamoto A, Mizushima N |
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科細胞生理学分野 水島昇研 塚本智史 2008/07/06
マウス着床前胚の発生にオートファジーは必須である。
みなさま、こんにちは。先日、我々が発表しました「マウス卵のオートファジー」に関する論文を紹介させて頂きます。
ほ乳動物の成熟卵子(未受精卵)には卵子形成の過程で作られた母親に由来する(母性)mRNAやタンパク質の多くが蓄積しています。ところが、受精直後にはこれらのほとんどは分解され受精卵のゲノムにコードされるmRNAやタンパク質に置き換わることが知られています。マウスでは、受精1.5日目の2細胞期に受精卵ゲノム由来の転写活性化が起こります。これにより新規タンパク質合成のパターンも劇的に変化します。最近になって母性mRNAの分解機構にはmicro RNAが関与することが明らかになっていましたが、母性タンパク質の分解機構は不明のままでした。
今回、我々は受精後4時間以内にオートファジーが活発に誘導されることを見いだしました。排卵しても受精せずに一定時間経過した卵子ではオートファジーの誘導は観察できなかったことから、少なくとも受精によってオートファジーが活性化していると考えられます。興味深いのは、受精直後活発に誘導されたオートファジーは1細胞後期から2細胞前期にかけて検出できないレベルにまで一旦抑制され、2細胞中期以降に再び活性化されます。このことが何を示唆しているのかは明らかではありませんが、一つの可能性として卵割前の核膜崩壊によって核内から細胞質へと分散した初期化(リプログラミング)因子(分化した体細胞の核を未分化な状態に戻すために必要な因子)を保護するためにオートファジーが一時的に抑制されているのかもしれません。次に、この時期のオートファジーの生理機能を解析するために、Atg5を卵子特異的に欠損したコンディショナルノックアウトマウスを作製しました。従来の全身型Atg5ノックアウトマウスはヘテロマウス同士の交配によって得るため、ヘテロ雌由来の未受精卵にはごく微量ながらAtg5(母性Atg5)タンパク質が蓄積しており、このタンパク質の受精卵への持ち込み(いわゆる母性効果)によって発生の極めて初期に現れるはずの表現型がマスクされていることが想定されました。そのため、受精直後のオートファジーの機能を解析するためには、卵子で完全にAtg5を欠損するマウスの作出が不可欠でした。その後の解析から、この雌マウスでは卵子成熟や排卵、受精は全く正常に起こり、これらの過程にオートファジーは必須でないことが分りました。野生型の雄マウスとの交配によって得られた受精直後の受精卵ではオートファジーが完全に欠損していることも分りました。そこで、この雌マウスとAtg5ヘテロ雄マウスを交配させたところ、得られた産仔のすべてがAtg5+由来の精子と受精した産仔でした。その後の詳細な解析から、Atg5−由来の精子と受精した場合には受精2.5日目の4〜8細胞期で胚発生が停止することが分かりました。一方、Atg5+由来の精子と受精した場合には、受精卵ゲノム由来のAtg5の発現によって完全ではないものの発生がレスキューされることが明らかとなりました。また、オートファジー欠損胚では新規のタンパク質合成率が低下していたことから、受精直後に活発に誘導されるオートファジーによって母性タンパク質は大規模に分解され、その分解産物であるアミノ酸が新規タンパク質合成のための材料となっていると考えられます。古くからマウス受精卵の体外培養では、アミノ酸を培養液中に特に添加しなくても(私は添加派ですが)着床まで正常に発生することが知られていました。本研究は、受精直後のオートファジーによる母性タンパク質の大規模分解とアミノ酸の自給自足のシステムが受精から着床するまでの胚(着床前胚)の発生に必須であることを明らかにしたものです。一方で、受精直後の初期胚には、胚発生に影響を与える卵子由来の細胞質成分や精子由来の因子が残っており、これらの積極的分解にオートファジーが関与している可能性もあり今後さらなる成果が期待されます。
最後に私事で恐縮ですが、4月より所属がかわりました。(こちらは先日Bad Newsを発表した)(独)放射線医学総合研究所(実験動物開発・管理課) 塚本智史