PubMedID |
18485871 |
Journal |
Cell, 2008 May 16;133(4);627-39, |
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Title |
Epigenetic control of rDNA loci in response to intracellular energy status. |
Author |
Murayama A, Ohmori K, ..., Shimizu T, Yanagisawa J |
筑波大学・大学院生命環境科学研究科 柳澤純研究室 村山明子 2008/08/25
rDNA領域のエピジェネティックな制御による細胞内エネルギー調節機構
最近、我々が発表した論文について紹介させていただきます。
今回の内容はタンパク分解とはかけ離れているのですが、オート ファジーをはじめとするタンパク分解とエネルギーセンシングとは密接に関係しているという点から、我々の発見したエピジェネティックなエネルギーセンシングとタンパク分解系とのクロストークの存在が示唆されます。以下の解説を参考にしていただければと思います。
我々は、細胞培養液中のグルコースを減らすと、ヒト培養細胞中のリボソーム合成やたんぱく質産生量が低下することを見出した。さらに、その制御メカニズムの主役となるヌクレオメチリン(NML)という新規蛋白質の同定に成功した。NMLは、核小体に存在し、自身はジメチル化修飾されたヒストンH3K9に特異的に結合した。また、NMLはNAD依存的脱アセチル化酵素SIRT1やヒストンH3K9メチル化酵素SUV39H1と複合体を形成していた。さらなる解析により、このNML複合体はrDNA領域をヘテロクロマチン化することによって栄養飢餓状態でのrRNA合成抑制に働くことが判明した。栄養飢餓状態では細胞内NAD/NADHの比率が上昇し、SIRT1が活性化することが知られている。我々は、rDNA領域において、栄養飢餓状態でNML複合体に含まれるSIRT1によるヒストン脱アセチル化の上昇を確認した。また、それに引き続き、SUV39H1によってヒストンH3ジメチル化が上昇し、メチル基の付加されたヒストンに新たにNML複合体が結合することが可能となる。このようなエピジェネティックな反応の繰り返しにより、NML複合体は隣接したヒストンを順次メチル化し、rRNAの転写を抑制していることが示唆された。また、NML複合体の機能破綻はエネルギーバランスの崩壊と、それに伴う細胞死を引き起こすことから、栄養飢餓による細胞死の回避に働いていることも判明した。以上の結果から、NML複合体は細胞内エネルギー量を感知し、エピジェネティックな調節によるrRNA合成抑制を介してエネルギー消費をコントロールするたんぱく質複合体であることが明らかとなった。