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PubMedID 18724939 Journal Cell, 2008 Aug 22;134(4);668-78,
Title Ubiquitin chain editing revealed by polyubiquitin linkage-specific antibodies.
Author Newton K, Matsumoto ML, ..., Kelley RF, Dixit VM
東京都臨床医学総合研究所 先端研究センター  田中啓二研    税所慶子・松田憲之     2008/09/03

抗体が市販されるのが待ち遠しい
ユビキチンを認識する抗体には,1) 単体のユビキチンとユビキチン鎖とを認識するもの,2) モノ・ポリのユビキチン鎖を認識するもの,3) ポリユビキチン鎖を(かなり)特異的に認識するもの,などが有ります.一方で K48 linkage や K63 linkage のユビキチン鎖を特異的に認識する抗体は,長く期待されながらも存在しませんでした.この論文では,ファージライブラリーを用いてK48,K63 linkage のユビキチン鎖に特異的に結合する抗体を作製し,それらの抗体を用いて様々な解析を行っています.

得られた抗体は五種類で(Apu2.07,Apu2.16,Apu3.A8,Apu3.12,Apu3.B3),Apu2.07 は K48 linkage Ub に特異的に結合する抗体,Apu2.16 は K48 linkage,K63 linkage の両方に結合しますが特に後者 (K63-linkage) に強く結合する抗体,Apu3.A8・Apu3.A12・Apu3.B3 は Apu2.16 をもとに作製された K63 linkage Ub に特異的に結合する抗体です.

さらに筆者らは Apu2.16/Apu3.A8と K63 linkage Ub の複合体の結晶構造解析を行い,これらの抗体は K63 linkage そのものを認識するのではなく,その前後のアミノ酸(ドナー/アクセプター両者のユビキチンのアミノ酸)を認識することを示しています.先述の様に Apu3.A8 はApu2.16 よりも K63-linkage Ub に対する特異性が高いのですが,両者の構造の比較から,Apu3.A8 における L2/H2 のアミノ酸の変化が,抗体とUb 表面の静電的適合性をより上昇させていることも示唆されています.

データを見ると Apu2.07 や Apu3.A8 はウエスタン,免疫沈降,免疫蛍光染色,免疫組織化学染色等の様々な実験に使えるようです.免疫沈降実験においては,免沈産物をマスで解析すると target 以外の linkage も検出されていますが(例えば K48-linkage を認識する Apu2.07 で免沈をしても,K6-linkage や K11-linkage が観察されています),これらの他の linkage (K6,K11) は target linkage (K48) が存在する時だけに検出されることから,抗体が target 以外の linkage を認識しているというよりも,K48 ユビキチン鎖の中に K6 や K11 が含まれている可能性が高いようです(この結果は他グループの報告とも一致します).

また筆者らは,これらの linkage-specific な抗体を用いた実験の一例として,RIP1 (NfκB 経路においてユビキチン化されますが,その修飾様式は K63 linkage Ub から K48 linkage Ub へ変化すると言われています) や IRAK1 のユビキチン化を調べる実験を行い,これらのタンパク質の受ける修飾が K63 linkage からK48 linkage へと変化 (switching) することをウエスタンで確認しています.

田中研のセミナーでは,
1. K48 linkage Ub と抗体との結合様式について一切記述がないのが残念(単純に Apu.2.07-Ub 複合体の結晶が得られなかっただけかもしれませんが・・・)
2. 免疫組織化学染色法において,UV を照射した場合のデータしか示されていない (UV を照射しない場合にどのような結果が得られたのか気になる・・)
3. RIP1 や IRAK1 の linkage switching を検出する実験において,プロテアソーム阻害剤の使い方(濃度・時間)に疑問が残る
などの意見も出ましたが,報告された抗体は汎用性も高く,非常に有用であることが期待されるので,トータルには優れた(興味深い)論文だと思います.

何と言っても,ユビキチンの linkage を決めるのに K48R や 48K-only の変異ユビキチンを用意したり,マスで解析したりする必要が無いのは素晴らしいことです.これらの抗体が早く市販されることを望みます.
   
   本文引用

1 東京都臨床医学総合研究所 先端研究センター  田中啓二研  松田憲之 市販されました 2009/06/15
以前に投稿した論文に関する Follow です.
論文中で紹介されている K48- or K63-linkage specific (?) Ub 抗体について「市販されるのが待ち遠しい」と記したのですが,Millipore 社から売り出されました.(K63-linkage specific として Apu3 が,K48-linkage specific として Apu2 が市販されています).
K63-linkage 特異的抗体としては他にも Vignali らが PNAS に報告した HWA4C4 もあるので(複数の会社から購入可能),田中研でもこれらの抗体を購入して「本当にどの位の特異性があるのか?」など,色々と調べてみたいと思っています.
      
   本文引用


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