Proteolysis Forum
トップ

PubMedID 0 Journal ;
Title
Author
順天堂大学医学部内科学  代謝内分泌学教室    綿田裕孝     2008/10/09

膵β細胞とオートファジー
最近受理された、我々の論文を紹介させていただきます。

オートファジーと糖尿病の話なので、まず、背景として、糖尿病のお話をします。

現在世界で急増している2型糖尿病は、膵β細胞機能不全とインスリン抵抗性があいまって発症する疾患です。先進国で認められる過食、運動不足による過栄養状態が、インスリン抵抗性を引き起こしますが、これだけでは糖尿病は発症しません。2型糖尿病の発症には、遺伝的な膵β細胞の脆弱性の存在が必須です。その特徴は以下のとおりです。

1)糖尿病発症以前から認められるブドウ糖応答性インスリン分泌低下

2)過栄養状態などによりインスリン抵抗性が出現すると本来認められるべきである膵β細胞容積増加が認められず、逆に膵β細胞容積が低下し、耐糖能の悪化に寄与する。


以上のような2型糖尿病に特徴的な膵β細胞異常を一義的に説明できる機構は未だ明らかになっていませんでした。そこで、我々は、オートファジーに着目し、この機構の関与を検討しました。
まず、インスリン抵抗性状況下でのオートファジーの状態を電子顕微鏡で調べました。正常マウスに高脂肪食を摂取させ、インスリン抵抗性を誘発すると膵β細胞におけるオートファーゴゾームの形成亢進が認められました。この事実は、膵β細胞は、全身のインスリン抵抗性を感知し、その結果オートファジーの亢進が起こっていることを示唆します。なお、膵β細胞においては、24時間絶食によるオートファジーの亢進はみとめられませんでした。
それでは、膵β細胞は、どのようにして、インスリン抵抗性状態を感知するのでしょうか?われわれは、インスリン抵抗性状況下の血中で増加する因子の中で特に遊離脂肪酸 (Free Fatty Acids, FFA) に着目して検討しました。その結果、培養膵β細胞株では、FFA応答性にAutophagic fluxが増加することが明らかになりました。
次に、膵β細胞におけるオートファジーの意義に関して、膵β細胞特異的ATG7ノックアウトマウスを作製し解析をしました。上述した電子顕微鏡による形態観察で、膵β細胞においては、24時間絶食後もオートファジーの誘導は認められないことを確認しておりましたので、恒常的オートファジーは、通常食状態でこのマウスを飼育することにより、また、誘導性オートファジーは、高脂肪食負荷にてインスリン抵抗性状態におき、膵β細胞を観察することにより行いました。
その結果、通常食摂取下の膵β細胞特異的ATG7ノックアウトマウスでは、膵β細胞の空胞変性が著明に認められ、p62蛋白の蓄積とユビキチン化蛋白の蓄積が認められましたが、血糖値は僅かに増加するのみでありました。膵β細胞は、血中のブドウ糖濃度応答性にミトコンドリアにおいて、ATPを産生し、この濃度依存性にKATPチャンネルを不活性化し、膜の脱分極を介して、インスリンを分泌しますが、膵β細胞特異的ATG7ノックアウトマウスでは、ミトコンドリアにおけるATP産生低下によると考えられるブドウ糖基質特異的なインスリン分泌不全を認めました。これは発症前から認められる2型糖尿病の病態に合致する特徴でした。
次に、インスリン抵抗性下における膵β細胞特異的ATG7ノックアウトマウスの耐糖能を検討しましたところ、このマウスでは、高脂肪食応答性に耐糖能が大きく悪化し、膵β細胞では、p62蛋白の蓄積とユビキチン化蛋白の蓄積の亢進が認められました。この際、膵β細胞にはApoptosisの亢進が起こり、インスリン抵抗性で誘導されるべき膵β細胞容積増加が認められませんでした。
 機序などに関して、今後、解決しなければならない点が多数ありますが、本論文は、まず、膵β細胞におけるオートファジーの生理的重要性を示す第一報と考えています(Ebato C. et al Cell Metabolism 2008: 8 (4): 325-332)。韓国のLee MSらのグループも同時に、同様な結果を発表しています (Seung H. et al Cell Metabolism 2008: 8 (4): 318-324)。
 
 ご意見、ご感想、お待ちしております。
   
   本文引用

1 基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門  大隅良典研  壁谷 幸子 栄養飢餓誘導型オートファジーとの比較 2008/10/21
 膵β細胞特異的 ATG7 ノックアウトマウスで観察されたブドウ糖応答性インスリン分泌低下が 2 型糖尿病と一致する点は、膵β細胞でのオートファジーの重要性を示すものとして興味深いと思いました。ただ、膵β細胞におけるオートファジーは、栄養飢餓誘導型オートファジーと下記の点で異なるようでした。

 第一に、オートファジーの誘導が高脂肪食摂取によりおこり、絶食による影響は受けない。第二に、ATG7 欠損によりミトコンドリアに機能異常が見られる。韓国のグループの電顕では、ミトコンドリアだけでなく小胞体やゴルジ体の形体異常がみられています。栄養飢餓によるオートファジーでは、これらの形体異常が観察された報告はないように思います。これらは、膵β細胞という器官特異的な機能に依存したものなのでしょうか。

 一方、これらのオートファジーに共通する点は、ATG 遺伝子に依存している点と、ATG7欠損膵β細胞がオートファジーを誘導すると細胞死(アポトーシス)に至る点ではないかと思いました。後者は、ATG 遺伝子欠損の出芽酵母が栄養飢餓条件下で致死になる点と一致します。

 最後に、膵β細胞におけるオートファジーの活性化機構が明らかになれば、2 型糖尿病の治療に有益であると思いました。
      
   本文引用


Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局