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PubMedID 18843052 Journal Mol Biol Cell, 2008 Oct 8; [Epub ahead of print]
Title Beclin 1 Forms Two Distinct Phosphatidylinositol 3-Kinase Complexes with Mammalian Atg14 and UVRAG.
Author Itakura E, Kishi C, Inoue K, Mizushima N
東京医科歯科大学、細胞生理学分野  水島昇研    板倉 英祐     2008/10/10

哺乳類Atg14と2種類のクラスIII PI3K複合体の発見
 本日我々の論文がPubmedに載りました。早速紹介させていただきます。
Atg14はオートファジー必須遺伝子として10年ほど前に酵母で発見されました。しかし通常のBLASTによる検索では哺乳類ホモログ候補は見つかっていないことから、哺乳類Atg14は発見されていませんでした。そこで我々はPSI-BLAST(Position-Specific Iterated BLAST: BLAST検索結果のいくつかの候補より保存性の高いアミノ酸残基を抽出し、その配列を使用して再度検索をかけることによって全体的に類似性の低い遠縁の配列でも高感度に検出できる検索方法)を使用して哺乳類Atg14候補としてKIAA0831遺伝子を同定し、その解析を行いました。

 予想通り、Atg14はVps34-Beclin 1と共にクラスIII PI3K複合体を形成していました。そしてAtg14は隔離膜への局在を示し、Atg14のノックダウンはLC3ドットの減少、p62の蓄積、電子顕微鏡観察によるオートファゴソームの減少などを導きました。それらのことからAtg14はオートファゴソーム形成に関わる因子であることが示唆されました。また我々は独自にPSI-BLASTによって酵母Vps38の哺乳類ホモログとしてUVRAGを予測していました。実際にUVRAGはAtg14と別のクラスIII PI3K複合体を形成していました。UVRAGはエンドソームに局在したことから、Vps38のホモログとしてエンドサイトーシスに関わっている可能性がありました。しかし一方で酵母Vps38はオートファジーに機能していないが、哺乳類UVRAGは他のグループからオートファジー因子としても報告されていることからUVRAGの機能は複雑であることが考えられます。

 私が注目している部分はFigure5です。Atg14はそのコイルドコイルドメインによってVps34-Beclin 1と結合していますが、Vps34-Beclin 1と結合しないAtg14のコイルドコイル欠損変異体でも飢餓依存的に隔離膜に局在できました。このことからAtg14自身に隔離膜形成のサイトに移行できる機能があることがわかりました。驚いたことに飢餓誘導されるAtg14ドットはPI3K阻害剤でありオートファジー阻害剤として利用されているwortmanninに非感受性でした。隔離膜マーカーであるAtg5, Atg16のドット形成やオートファジー自体がwortmanninで阻害されることから、wortmannin存在下でも形成されるAtg14ドットが何を意味しているのか興味深いです。



   
   本文引用

1 基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門  大隅良典研  壁谷 幸子 ほ乳類 Atg14 同定により広がる世界 2008/10/14
 これまで未知であった哺乳類 Atg14 および、が同定され、従来様々な膜輸送と区別することが難しかったオートファゴソーム形成における PI(3) –kinase 複合体の機能解析がより明らかになることでしょう。同時に酵母 Vps38 ホモログとして同定した UVRAG も、内在性の Atg タンパク質の相互作用や細胞内局在のデータにより、これまでの過剰発現系を用いた報告に比べ、説得力があると思いました。

 板倉さんらの注目されている Fig. 5 の Vps34 に結合できない Atg14 変異体の局在、気になります。特に、野生型の Atg14では、LC3や Atg16L との局在が隣り合って見えるのに対し、この変異型ではシグナルがぴったり重なって見えるのが意味深です。電顕観察されてどうでしょうか?
      
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2 東京医科歯科大学、細胞生理学分野  水島昇研  板倉 英祐 コメントありがとうございます 2008/10/15
Atg14も含め哺乳類オートファゴソーム形成に関わると思われる因子は大分発見されてきたと思います。
そのなかでAtg14がどのような位置づけになるのか大変興味深いと思っております。
      
   本文引用
3 北海道大学薬学研究院  木原章雄研  小原圭介 Atg14のC末領域 2008/10/22
はじめてお目に掛かります。論文を興味深く読ませて頂きました。

 哺乳類のVps34がオートファジーとリソソームへの輸送に関わっている事は知られていましたが、酵母で見られるようにVps34を二つの経路に振り分ける仕組みがあるのか、といった点は不明で気になっておりました。今回の論文での哺乳類Atg14およびVps38の発見と機能解析により、この点がすっきりしたと思います。

 板倉さんが注目されている2点(Atg14の局在がコイルド・コイルに依存しない点およびwortmanninに影響されない点)は、興味深いです。Wortmanninの件に関しては、Atg14がPI3Pを生み出す酵素複合体の一員であることを考えると、wortmanninに影響されなくても良い、と個人的には思いました。
 コイルド・コイルの件は非常に興味深いと思いました。酵母では、Atg14 のコイルド・コイル部分のみ(C末端半分を欠いたもの)を発現させると、オートファジックボディーが小さくなってしまいます。そこで、欠けたC末端半分の機能に興味を持っていたのですが、残念ながら酵母ではC末端半分のみでは非常に不安定で解析はストップしてしまいました。哺乳類Atg14の場合は安定に存在して、しかも隔離膜に局在できる(逆に、それで安定に存在できるのかも知れません)とのことで、今後の解析が進んで欲しいと思っております。
      
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4 東京医科歯科大学、細胞生理学分野  水島昇研  板倉 英祐 コメントありがとうございます 2008/10/23
貴重な情報ありがとうございます。

今回の論文から示唆されるAtg14の機能はVps34を隔離膜に引き連れていくことであって、
Atg14自身のオートファゴソーム形成への関与はわかっておりません。

小原さんがご指摘なさっているようにAtg14のC末端に何らかの機能があればそれはおそらくVps34に非依存的で、Atg14が直接オートファゴソーム形成に関わる可能性もあり、とても面白いと思います。
      
   本文引用


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