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PubMedID 19088090 Journal Development, 2009 Jan;136(2);241-51,
Title Homeodomain-interacting protein kinases (Hipks) promote Wnt/Wg signaling through stabilization of {beta}-catenin/Arm and stimulation of target gene expression.
Author Lee W, Swarup S, ..., Ishitani T, Verheyen EM
九州大学生体防御医学研究所  細胞統御システム分野    石谷 太     2009/01/07

蛋白質リン酸化酵素HIPK2はβカテニンの安定化を介してWntシグナルを促進する
最近発表したカナダSimon Fraser Universityとの共同研究の論文を紹介させて頂きます。

 私たちは、Wntシグナルのリン酸化/ユビキチン化による制御に注目して研究を行っております。これまでに私たちは、「蛋白質リン酸化酵素NLKがWntシグナルの転写因子Lef1のリン酸化を介して、Wntシグナルを負に制御すること」を明らかにしていました。しかし、このNLKによるWntシグナル制御がどのような上流シグナルによって制御されるかについては、十分に調べられていません。最近になって、私たちは理研・石井俊輔先生との共同研究により、「in vitroにおいて蛋白質リン酸化酵素homeodomain-interacting protein kinase-2 (HIPK2)がNLKを活性化すること」を発見しました。そこで私たちは、「HIPK2がNLKを介してLef1のリン酸化を誘導し、Wntシグナルを負に制御する可能性」を期待し、これを検討しました。その結果驚くべきことに、「(1) ヒト培養細胞株HelaにおいてHIPK2はNLKとは逆にWntシグナルの標的遺伝子発現を正に制御すること」、「(2) HIPK2がβカテニンに結合してβカテニンを安定化すること」、「(3) HIPK2によるβカテニンの安定化が、ショウジョウバエの翅形成に必須であること」、「(4) ショウジョウバエにおいてHIPK2がβカテニンをリン酸化すること」が明らかになりました。これらの結果から、「HIPK2はβカテニンの安定化を介してWntシグナルの活性を促進しており、その機能は種をこえて保存されている」と考えられます。

 これまでに、βカテニンの安定性はタンク質リン酸化酵素GSK3β及びCK1によるリン酸化により制御されることが知られていました。HIPK2はβカテニンの安定性を制御する新たなリン酸化酵素であり、またGSK3βやCK1とは逆にβカテニン安定化を促進するので、非常に興味深いと思います。しかし、「HIPK2がβカテニンを安定化する分子機構」や「HIPK2によるβカテニン安定化の脊椎動物における生理学的意義」については、大部分が未解明です。今後は、これらのことを明らかにして行きたいと考えています。頑張ります。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局