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PubMedID 18722006 Journal Cell, 2008 Sep 5;134(5);866-76,
Title Global sequencing of proteolytic cleavage sites in apoptosis by specific labeling of protein N termini.
Author Mahrus S, Trinidad JC, ..., Burlingame AL, Wells JA
東京都臨床医学総合研究所  反町研    秦 勝志     2009/01/14

プロテアーゼの基質とその切断点を一挙に同定する手法
プロテアーゼの基質とその切断点同定の重要性は言うまでもないが、近年、LC-MS/MS解析により、組織または細胞のサンプルからそれらを一挙に同定する方法が報告されている。具体的には、試料中のタンパク質のN末端をビオチン修飾し、アビジンビーズでトラップした後ペプチダーゼ(trypsin, Lys-Cなど)処理し、ビーズから溶出したビオチン化断片を解析することで、基質と切断点を同定するものである。(タンパク質の80-90%はN末端がアセチル化等修飾を受けるが、その他のタンパク質や、プロテアーゼに切断されて生じるタンパク質断片のN末端はフリーである。)
N末端アミノ基をビオチン修飾するためには、一般的にはLys側鎖アミノ基を予め不活性化しておく必要があるが、本論文では、subtiligaseという酵素を用いることで1 stepでのN末端の選択的ビオチン修飾を可能とした。subtiligaseは著者のグループが以前に開発した酵素で、セリンプロテアーゼsubtilisinの活性中心SerをCysに変異させ、その他数カ所も点変異させることで、ペプチドエステルとタンパク質N末端アミノ基を連結させる活性を有する (活性中心はCys)。Biotin-(TEV protease認識配列ENLYFQSY)-O-Tyrというペプチドエステルを合成し、これをsubtiligase存在下試料タンパク質と反応させることでビオチンラベルが完了する。最終的にTEV proteaseを用いてビーズから溶出するSY-で始まるペプチド断片を網羅的にLC-MS/MS解析するものである。実際にエトポシド処理Jurkat細胞を用いて(未処理細胞がネガコン)解析することで、数百ものcaspase新規基質(候補)及び切断点が同定されている。
もう一つ、同じような論文がある。
Cell (2008) vol.134, 679-691
Global mapping of the topography and magnitude of proteolytic events in apoptosis.
スタウロスポリン処理または未処理Jurkat細胞の抽出タンパク質を並べてSDS-PAGEし20-200kDaの間で高分子側から等間隔(5mm)で切り出し、それぞれをin-gel digestionしLC-MS/MS解析するものである(シンプルであるが各サンプルで20フラクション以上になりかなり大変な作業と思われる)。こちらでもcaspase新規基質(候補)及び切断点が数百同定されている。MS/MS解析により、スタウロスポリン処理で分解されるタンパク質が同定されるだけでなく、生じる分解断片についてMS/MSで同定されたペプチドをマッピングすることで切断点も同定されるし、薬剤処理のタイムコースをとることで分解後の断片の挙動を知ることも可能となる。
どちらも実験間の誤差は避けられず、高感度でMS/MS解析できるペプチドの長さの限界 (7-40aa)など課題はあるが、様々なプロテアーゼの基質・切断点同定に有用な方法ではないだろうか。
   
   本文引用



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