PubMedID |
19619494 |
Journal |
Dev Cell, 2009 Jul;17(1);87-97, |
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Title |
Mitochondria-anchored receptor Atg32 mediates degradation of mitochondria via selective autophagy. |
Author |
Okamoto K, Kondo-Okamoto N, Ohsumi Y |
東京工業大学 統合研究院 先進研究機構 大隅良典研究室 岡本浩二 2009/07/22
選択的ミトコンドリア分解を司るタンパク質受容体の発見
最近、私たちが発表した論文を紹介させていただきます。
ミトコンドリアは、細胞内のほとんどのATPを産生する一方、エネルギー変換の過程で生じる活性酸素種(ROS)によるストレスに直接曝されているオルガネラです。このため、ミトコンドリアには、ROSを消去する抗酸化酵素に加え、障害を受けた不良タンパク質を分解する機構が備わっています。さらに、タンパク質レベルでの品質管理では対応できないほどにダメージを蓄積した場合は、オートファジーの膜動態を使って、ミトコンドリアが丸ごと排除されると考えられてきました。この過程はマイトファジーと呼ばれ、酵母からヒトまで保存された、ミトコンドリアや細胞の機能に重要な現象として注目されていますが、実際にミトコンドリアが選択的に分解されているのか、もしそうなら、その選択性を規定している因子は何なのか、謎のままでした。
本研究では、呼吸増殖を経た後の出芽酵母細胞において、多数のミトコンドリアが選択的に隔離され、分解コンパートメントである液胞(ヒトではリソソーム)の内腔に輸送されることを、電子顕微鏡観察によって確認しました。そして、網羅的スクリーニングにより、この過程で特異的に働く因子をAtg32として同定しました。このタンパク質はミトコンドリア表面に局在し、Atg8およびAtg11と相互作用することで、オートファジー膜動態をミトコンドリアに特化する受容体であると考えられます。興味深いことに、Atg32の細胞質側ドメインには、p62やNBR1(哺乳類において、ユビキチン化されたタンパク質の選択的オートファジーに働くレセプター)がもっている、Atg8ファミリータンパク質との結合に直接関与するWXXI/L/Vモチーフが存在します。このモチーフに変異を導入すると、Atg8との結合が見られなくなり(Atg11との結合は影響されません)、マイトファジーも部分的に抑制されました。このことは、WXXI/L/Vモチーフを介したレセプターとAtg8との結合が、オルガネラの選択的分解にも役割を果たしており、マイトファジーの基本的な仕組みが酵母からヒトまで保存されている可能性を示唆しています。
私たちの研究成果により、ミトコンドリア分解の選択性を規定する因子が初めて明らかとなりました。加えて、マイトファジーの誘導・進行・停止における制御機構の解明につながるものであるとともに、この現象の生理的意義の理解に貢献するものであると期待しています。Atg32の分子機能に関しては、このマイトファジー・レセプターの発現・活性化がどのように調節されているのかといった問題についても、明らかにしてゆきたいと考えています。
なお、ミシガン大・Dan Klionsky研究室の神吉智丈さんたちもAtg32を同定し、私たちの論文とともに掲載されています(Kanki et al., Dev. Cell, 17, 98-109)。これらマイトファジー・レセプターの発見は、東京医科歯科大の石原直忠先生・水島昇先生によるPreviewでも、注目トピックスとして解説されました(Ishihara and Mizushima, Dev. Cell, 17, 1-2)。