PubMedID |
19773385 |
Journal |
Plant Cell, 2009 Sep;21(9);2914-27, |
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Title |
Autophagy negatively regulates cell death by controlling NPR1-dependent salicylic acid signaling during senescence and the innate immune response in Arabidopsis. |
Author |
Yoshimoto K, Jikumaru Y, ..., Ohsumi Y, Shirasu K |
理研・植物科学研究センター 植物免疫研究チーム 吉本 光希 2009/11/22
植物オートファジー 〜サリチル酸シグナリングを抑制し細胞死に歯止めをかける〜
最近、私たちが発表した論文を紹介させて頂きます。
これまでの研究から、植物はオートファジー能を欠損すると、栄養状態が良いにも関わらず、老化が早まり、病原菌感染時に防衛反応として引き起こす細胞死を過剰に発生することがわかっていました。しかしながら、なぜオートファジーが不能となると、このような表現型を示すのか、そのメカニズムはこれまで謎でした。
今回、オートファジー能を欠損したシロイヌナズナ変異体を用いた生化学的、遺伝学的、薬理学的解析から、オートファジー欠損植物における細胞死促進の原因が、過剰なサリチル酸シグナリングであること、またそのシグナルによってオートファジーが誘導されることを発見しました。
本論文では以下のことを示しました。
1. オートファジー能を欠損すると細胞内のサリチル酸量が増え、サリチル酸シグナリングが過剰になる。
2. オートファジー不能変異体のサリチル酸シグナルを不活化すると早老化による細胞死・病原菌感染時に引き起こされる過剰な細胞死が抑制される。
3. 老化に関与しているといわれている、植物ホルモンのジャスモン酸やエチレン関連シグナルを不活化しても細胞死促進は抑制されない。
4. サリチル酸アナログ(BTH)を処理すると、多数のオートファゴソームが誘導され、その誘導はサリチル酸シグナル伝達タンパク質NPR1に依存している。
これらの結果から、私たちは、植物オートファジーはサリチル酸シグナリングの絶妙なバランスを取るための、ネガティブフィードバックループとして機能しているというモデルを提唱しました。
今後は、植物オートファジーのサリチル酸シグナリング抑制について、詳細な分子メカニズムを解明していきたいと考えています。
なお、本論文は11月1日現在、米国科学雑誌『The Plant Cell』の『The 100 Most-Frequently Read Articles』にランクインし、“草”のオートファジーも徐々に注目を集めつつあります。今後、植物オートファジーにも興味を持って頂けると幸いです。
※サリチル酸
古くは鎮痛剤としても使われていた植物ホルモンの1種。病原菌感染によって生合成が誘導され、病害抵抗性反応を引き起こすが、過剰であるとかえって有害。