PubMedID |
19749745 |
Journal |
Nat Cell Biol, 2009 Oct;11(10);1233-40, |
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Title |
Listeria monocytogenes ActA-mediated escape from autophagic recognition. |
Author |
Yoshikawa Y, Ogawa M, ..., Chakraborty T, Sasakawa C |
東京大学医科学研究所 細菌感染分野 小川道永 2009/11/25
リステリアのオートファジー回避機構の発見
私たちが最近発表した論文を紹介させていただきます。
リステリア・モノサイトゲネス(リステリア)は、免疫力の低下した患者、高齢者、妊婦に感染すると致命率の高いリステリア症(全身性感染症の一つ)を起こします。細胞内へ侵入したリステリアは、菌体表面に発現したActAと宿主細胞のArp2/3複合体およびVASPが結合して菌体の一極にアクチン重合を誘導します。アクチン重合を繰り返すことにより菌はその反動で細胞内を運動し、さらに細胞から細胞へと感染を拡大します。
私たちはリステリアの感染初期におけるオートファジーの回避メカニズムを調べた結果、以下の点を明らかにしました。
1) 本菌のオートファジーの回避は菌の細胞内運動には依存せず、むしろ菌の表面を覆っているActAが宿主のArp2/3複合体とVASPと結合し、それらが(いずれか一つでも十分)菌体表面へ繋留することが必須である
2) これら宿主タンパク質と結合できない変異型ActAを発現するリステリアは、細胞内で変性タンパク質凝集体と同様、ユビキチン化され、p62を介してオートファジーにより処理される
3) ポリグルタミンやGFP-170*といった易凝集性タンパク質とActAのキメラタンパク質を用いた再構成実験の結果、ActAによる宿主タンパク質集積機能により易凝集性タンパク質のユビキチン化およびp62による凝集体の形成が阻害される
これらの結果から、リステリアは菌体の表面が宿主タンパク質で覆われることにより、宿主細胞内で異物であることを巧妙に擬装して、オートファジーによる異物処理システムをすり抜け感染を持続する、極めて高度に進化した病原体であることが明らかとなりました。本研究の成果が、オートファジーに関連するさまざまな変性性疾患の解明とともに、結核菌などの病原細菌のオートファジー回避機構の解明にも重要な手がかりを与えるものと期待されます。