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PubMedID 19793721 Journal Hum Mol Genet, 2009 Dec 15;18(24);4868-78,
Title Defective autophagy in neurons and astrocytes from mice deficient in PI(3,5)P2.
Author Ferguson CJ, Lenk GM, Meisler MH
東京工業大学 統合研究院  大隅良典研    小林孝史     2010/02/08

PtdIns(3,5)P2とオートファジーの関係
 PtdIns(3,5)P2は一番新しく同定されたイノシトールリン脂質の分子種であり、浸透圧ストレスなどにより誘導され、リソソームや液胞形態の恒常化に重要であると考えられている。
 PtdIns(3,5)P2の生合成はPIKfyve/Fab1によって行われるが、これまでの知見によりhVac14/Vac14がPIKfyve/Fab1の活性化因子であることが知られている。hVac14/Vac14は、Fig4と複合体を形成することによりPIKfyve/Fab1と結合することが可能になり、細胞内PtdIns(3,5)P2量を調節することができる(Jin et al, EMBO J, 2008)。これまでに、hVac14やFig4の変異(あるいは欠損)マウスではPtdIns(3,5)P2量を調節することができないために神経変性を生じることが示されてきており、それに伴って脳内に空包が生じることが観察されてきている。
 この論文で、著者らはFig4のKOマウスを作製し、その脳および脊髄中にp62、LC3-II、ユビキチンが蓄積することを明らかにした。また、beclin-1やmTORなどのオートファジー関連因子は脳内に蓄積していないことから、Fig4のKOマウスではオートファジーの終了段階付近で異常をきたしていることが予想された。様々な細胞マーカーとの共局在を試したところ、Fig4のKOマウスでは中枢神経系のグリア細胞の一つであるastrocyte(星状膠細胞)にp62が蓄積することを明らかにした。さらに、Fig4のKOマウスではアストロサイト(星状膠細胞)中に液胞・リソソームマーカーであるLAMP-2が蓄積することが確認され、p62との共局在も観察された。
 このような現象はFig4のKOマウスだけでなく、hVac14の変異マウス(ingls)でも確認されたことから、PIKfyve/Fab1の活性化に異常をきたすとオートファジーが阻害されp62やユビキチン化タンパクが蓄積し、神経変性を生じることが示唆された。
 著者らは、PIKfyve/Fab1の活性化に異常をきたすことにより生じるオートファジーの阻害は、Amphisomeの成熟あるいはAutolysosomeからのrecyclingに生じると仮説を立てているが、オートファジーが特異的に阻害されているのかそれとも膜輸送全般的に異常をきたしているのかなど細かい機構に関してはまだ未解決である。

 出芽酵母では、fab1欠失株においてもオートファゴソームの形成は野生株同様に行われることからPtdIns(3,5)P2とオートファジーの関係については着目されていないが、ショウジョウバエを用いた研究で示唆する知見が得られている(Rusten et al, Cur Biol, 2007)。その際に、fab1変異細胞では大きなAmphisome様の構造体や大きな空包が細胞内に観察され、Amphisomeが成熟するのにPtdIns(3,5)P2が必要であることを示唆しているが、この論文では哺乳動物細胞でも脳内において同様のことが観察される点やその原因細胞がastrocyteであることを同定したことが新規な点である。
   
   本文引用



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