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PubMedID 20045355 Journal Immunity, 2009 Dec 30; [Epub ahead of print]
Title Thymoproteasome Shapes Immunocompetent Repertoire of CD8(+) T Cells.
Author Nitta T, Murata S, ..., Tanaka K, Takahama Y
徳島大学疾患ゲノム研究センター・遺伝子実験施設  高浜洋介研    新田 剛     2010/02/09

胸腺プロテアソームはCD8T細胞の有用レパートリー形成に必須である
 最近発表された私達の論文を紹介させていただきます。

 胸腺プロテアソームは、新規の触媒サブユニットβ5tを構成因子として含み、胸腺特異的に発現される特殊なプロテアソームです。β5tは他のβ5サブユニットとは異なるプロテアーゼ活性を示し、その遺伝子は獲得免疫系を有する脊椎動物に保存されています。
 胸腺は、獲得免疫の司令塔であるT細胞の分化の場です。胸腺の微小環境は主として胸腺上皮細胞によって構成され、分化途上の未熟T細胞に正の選択(有用T細胞の生存と成熟)または負の選択(自己反応性T細胞の除去)を誘導することで、多様な抗原反応性と事故に対する寛容性を有するT細胞レパートリーを形成すると考えられています。β5tは胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現され、その遺伝子欠損マウスではCD8 T細胞数が減少しますが、そのメカニズムはわかっていませんでした。本研究では、β5tを含む胸腺プロテアソームが皮質上皮細胞特異的なMHC class I結合性ペプチドを作り出すことでCD8 T細胞の正の選択を制御する可能性を想定して研究を進め、以下のことを明らかにしました。

(1)β5t欠損マウスでは、胸腺におけるCD8 T細胞の正の選択が障害される。その影響はTCRクローンごとに異なる。
(2)β5t欠損はCD8 T細胞の負の選択およびCD4 T細胞の正の選択には影響しない。
(3)β5t欠損マウスでは皮質上皮細胞に発現されるMHC class I/ペプチド複合体が変化している。このことは、MHC class I結合ペプチドが質的に異なることを強く示唆する。
(4)β5t欠損マウス由来のCD8 T細胞は、TCR抗体による刺激に対して正常に応答するが、アロ抗原に対する応答が著しく低下している。すなわち、TCRレパートリーが変容している。
(5)β5t欠損マウスはインフルエンザウイルス感染に対する抵抗性が低い。

 これらの結果から、胸腺プロテアソームを発現する皮質上皮細胞は、ユニークなMHC class I結合性ペプチドを産生することで、アロ抗原やウイルス抗原といった「非自己」抗原を認識するためのCD8 T細胞の有用レパトア(immunocompetent repertoire)の形成を制御することが示唆されました。本研究の成果は、免疫システムの特徴のひとつである「自己と非自己の識別」が、胸腺特異的なタンパク質分解系によって制御されていることを示した、きわめて興味深いもの考えています。胸腺プロテアソームによって作られるペプチドの同定、および胸腺プロテアソームを発現する皮質上皮細胞と未熟T細胞の細胞間相互作用の実態解明が、今後の課題です。
   
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