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PubMedID 19956254 Journal Nature, 2009 Dec 3;462(7273);615-9,
Title Detection of sequential polyubiquitylation on a millisecond timescale.
Author Pierce NW, Kleiger G, Shan SO, Deshaies RJ
大阪大学大学院生命機能研究科  岩井研    岩井一宏     2010/02/11

ミリ秒レベルでポリユビキチン鎖生成機構を解析した画期的な論文
ユビキチン修飾系はE1、E2、E3と呼ばれる3種の酵素群の働きで、多くの場合、基質タンパク質にユビキチンが数珠上に連なったポリマーであるポリユビキチン鎖を付加することでタンパク質の機能を制御している。E3の大多数を占めるRING型E3は基質タンパク質とE2と結合し、E2から標的タンパク質のユビキチンの転移を促進する分子であるので、基質タンパク質に結合したユビキチンに次々にユビキチンが付加するとすれば、一見、活性中心が空間的に移動するように考えられるなど、ポリユビキチン鎖の生成メカニズムは未だ未解明であり種々の仮説が提唱されている。

ポリユビキチン鎖の生成機構が解明されてこなかった大きな理由は、ポリユビキチン化反応の早いkineticsに対応できる解析系がなかった点にある。本論文でDeshaiesらはquench-flow法(タンパク質のフォールディングの解析などに用いられる)と呼ばれる手法を用いて、Cullin型E3の代表であるSCFとCDC34(E2)による基質へのK48型ポリユビキチン鎖付加メカニズムをミリ秒レベルで解析した。

その結果、1.基質に付加するユビキチンの数はまず1個付加した基質が出現し、その後2個付加した基質が出現するなど、基質に付加されるユビキチンの数は経時的に順々に増加すること、2.1個あるいは2個ユビキチンが付加された基質の量を経時的に観察すると、平衡に達する前に平衡状態よりも量が多い時期があること(この結果は、例えば3個ユビキチンが付加した基質は2個ユビキチンが付加した基質にユビキチンが付加することで生成されることを示唆している)、を観察し、ポリユビキチン鎖はユビキチンが1つずつ、順々に付加されることを示した。

さらに、3.E3に認識された基質のうち、ユビキチン化される基質の割合は非常に少なく(Cyclin E由来のペプチドで30%弱、beta-catenin由来ペプチドで約6%のみがユビキチン化される)、E3に識別されれば必ずユビキチン化されるのではないこと、4.基質がユビキチン化されれば、E3が基質と結合して解離するまでの間に65%以上の基質に4個以上のユビキチンが付加されること、など、驚くべき現象を観察している。3.の結果からは基質とE3の親和性が基質の半減期に影響を与えることが示唆されている。3.4.の結果は、SCFが認識している基質へ1個目のユビキチンを付加する反応は遅いが、2個目以降のユビキチンを付加する反応は非常に早く進行することを意味しており、E2(CDC34)とE3(SCF)だけでモノユビキチン付加とポリユビキチン鎖伸長との両方の反応を触媒出来るが、その触媒様式は異なることを示唆している。この解析結果は、ユビキチン鎖伸長反応がポリユビキチン化の発見当初から想定されていたドグマ通りであることを示しているのに加え、少なくともSCFによるポリユビキチン化にはE4は不要である可能性も示唆しており、E3によるポリユビキチン化機構の解明の上で大きなエポックを与える論文であると思われる。
   
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