PubMedID | 20156962 | Journal | J Cell Biol, 2010 Feb 15; [Epub ahead of print] | |
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Title | Unconventional secretion of Pichia pastoris Acb1 is dependent on GRASP protein, peroxisomal functions, and autophagosome formation. | |||
Author | Manjithaya R, Anjard C, Loomis WF, Subramani S |
面白いことになってきました。
2007年にVivek Malhotraのグループは、細胞性粘菌の胞子形成誘導因子として働くAcyl CoA binding protein (ACBP)が、栄養飢餓による粘菌の胞子形成誘導時に、ゴルジ体を介さない未知の分泌経路で分泌されることを報告していました(M. A. Kinseth et al., Cell 130, 524)。また、この未知の分泌経路にはほ乳類のGRASP65のホモログが機能することを示していました。GRASP65はゴルジ体のタンパク質で、小胞体から来た輸送小胞を繋留して膜融合を促進する因子として知られています。ちょうど同時期に、ハエの細胞では、GRASP65のホモログが細胞膜に局在してゴルジ体を介さない特殊な分泌経路に機能しているという報告があり(H. Schotman et al., Dev Cell 14, 171)、GRASP65がどうやら細胞膜あたりで膜融合にも働いているらしいことが示唆されていました。
今回の論文では、このACBP (Acb1の分泌には、(1) オートファジー経路が必須なこと、(2) ペルオキシソームでの中鎖脂肪酸CoA合成が必須なこと、(3) 細胞膜でのSNAREを介した膜融合が必須なことを明らかにしています。Picia pastorisのACBP/Acb1が細胞性粘菌の胞子形成を誘導することを利用して、異種間でのバイオアッセイを用いて解析を行ったところがなかなか面白いです。実は、同じ号のJCBにVivekのグループがSaccharomyces cerevisiaeを使って相補的な論文を出しています。ちなみに、同じ日に投稿、同じ日にアクセプトですから、どうもeditorを交えて細かく事前調整をやっていた風情です。
彼らは、栄養飢餓によって特殊なオートファジー経路が活性化し、ACBP/Acb1がオートファゴソーム用の小胞に取り込まれた後、エンドソームかmulti viesicular bodyに融合したのち、細胞膜へ融合して細胞外へと放出されるのではないかと考えています。栄養飢餓時の胞子形成には、従来型のオートファジーが起っていることはよく知られていたと思いますが、この経路と区別がどのようになっているのか、今後の展開がたのしみです。
同じ号にSuzanne Pfefferが総説を書いていますので、こちらもご参考に。
1 | 大阪大学微生物病研究所細胞制御分野 吉森研 野田健司 | オートファジー経路を介した?特殊分泌経路 | 2010/02/19 |
中村さんが紹介されたように、非常に興味深く読みました。今後の展開という点で興味は尽きません。
とくにそのタイムコースのデータを最も素直に解釈すると、飢餓培養後150分から180分の間に、一過的にAcb1の細胞外への放出がおこり、その後は起きていないかのように見えます。 その間にどのような、膜現象がおきているのか、筆者等が提案するようにAcb1を取り込むオートファゴソームがあるのか、あるいはAtgに依存した全く別の現象なのか。今後、形態学的なレベルで理解が進むことを期待したいと思います。 ちなみに片方の論文の最終著者のVivek Malhotraには、私どもがこの6月に札幌でお世話する国際シンポジウム「メンブレントラフィックとがん」でも講演をお願いしています。 シンポジウムホームページ この話題に触れるかは確認しておりませんが、こちらも興味のある方は、是非ご参加ください。 |
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2 | 東工大・統合研究院 大隅研究室 鈴木邦律 | Acb1の分泌と胞子形成 | 2010/03/03 |
acb1破壊株の二倍体は胞子形成不能ですが,RecombinantのAcbAを外部から加えると胞子形成が若干回復するというデータに興味を引かれました.
atg mutantの二倍体も同様に胞子形成不能の表現型を示します. atg mutantではAcb1の細胞外分泌が起こらないので,atg mutantの胞子形成不能の表現型は,Acb1分泌が停止しているからでは,という妄想も膨らみます. atg mutantの二倍体にAcb1を加えたらどうなるんでしょう. 胞子形成との関連では,Acb1の分泌とMating typeとの間に関係があるかどうかも知りたいところです. また,野田さんの仰るように,一過的なAcb1の分泌にも興味を引かれます. 分泌にAtg11が関わっていることから,選択的なオートファジーが何らかの役割を果たしている可能性が示唆されます. 今後の展開が楽しみです. |
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3 | 東京医科歯科大学 細胞生理 水島昇 | atgはやはりアミノ酸不足では | 2010/03/04 |
私も鈴木さん(銀ちゃん)と同じことを考えました。ひょっとして、これがatg変異体の胞子形成不全の原因かと。しかし、以前竹川さんにこのフォーラムでも紹介していただいたように、分裂酵母のatg変異株は中途半端に苦しみながら胞子が作れないようであることと、アミノ酸過剰添加で部分的にレスキューされるとのことを考えますと、やはり主因はアミノ酸不足でよろしいのではないかと思います。分裂酵母でもAcb1は保存されているようです。
Acb1が分泌されない各種変異体で、Acb1がどこに蓄積しているかなどのデータがあればなお良いのでしょうが、十分に楽しめる論文でした。 |
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