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PubMedID 20173742 Journal Nat Cell Biol, 2010 Mar;12(3);213-23,
Title The selective autophagy substrate p62 activates the stress responsive transcription factor Nrf2 through inactivation of Keap1.
Author Komatsu M, Kurokawa H, ..., Tanaka K, Yamamoto M
東京都臨床医学総合研究所 タンパク質分解PT  小松研    小松雅明     2010/04/14

どこへ行くのか、p62
オートファジー選択的基質p62の新たな機能について報告します。

肝特異的Atg7欠損マウスは、p62の過剰蓄積・凝集化を伴った重篤な肝肥大および肝障害を引き起こす。この病態は、p62の同時欠損により劇的に軽減される。つまり、肝臓特異的オートファジー不全マウスの主な病因は、過度なp62の蓄積である。
また、Atg7欠損肝臓では一連の解毒酵素および抗酸化タンパク質群の遺伝子発現が誘導されており、その誘導はp62の同時欠損で抑制されること、さらに、Atg7欠損肝臓では、解毒酵素および抗酸化タンパク質群の遺伝子発現を正に制御する転写因子Nrf2が蓄積・核移行し、その蓄積はp62の同時欠損により抑制されることが分かっていた。

酸化ストレスを受けない細胞では、酸化ストレスを感知するセンサーであるcullin 3型ユビキチンリガーゼの基質アダプターKeap1とNrf2が相互作用し、Nrf2がユビキチン化・分解される。細胞が酸化ストレスに暴露されると、Keap1に構造変化が起こり、Nrf2との相互作用が解除され、その結果、Nrf2が蓄積し、核移行し、抗酸化タンパク質群の遺伝子発現を誘導する。

今回、p62とKeap1が直接相互作用することを見出し、構造解析によりp62が結合するKeap1の領域は、Nrf2が結合するKeap1の領域と同じ領域であることを明らかにした。このため、オートファジーの減弱やp62遺伝子発現の上昇によりp62が細胞内に過剰に蓄積されると、Keap1とNrf2の相互作用が競合的に阻害され、Keap1に結合せずに安定化したNrf2が核に移行し、抗酸化タンパク質群を誘導する。すなわち新しいストレス応答システムの存在を証明した。

Atg7欠損肝臓においてNrf2を同時に欠損させると、p62が過剰に蓄積・凝集化しているにも関わらずオートファジー不全による肝障害は劇的に軽減され、Keap1を同時欠損させると重篤化した。このことは、p62を介したNrf2の安定化、それに引き続いて起こる解毒酵素群や抗酸化タンパク質の過剰な発現が肝細胞を肥大化させ、肝肥大・障害を発症させると想定される。但し、肝臓特異的なKeap1欠損マウスはNrf2の安定化を引き起こすが軽度な肝障害である。従って、Nrf2の活性化とオートファジー不全が合わさった時、すなわちタンパク質の合成と分解のバランスが大きく崩れた場合に重篤な障害が現れるのであろう。Nrf2を介して発現誘導される遺伝子は数百もあり、その一つであるGstm1はオートファジー不全肝臓において細胞質タンパク質の8%以上を占める。

p62はユビキチン化タンパク質をオートファゴソームへ選択的に運び込むためのレセプターと想定されてきている一方、TRAF6との結合を介したNFκ-B活性化、ユビキチン化caspase-8との結合を介したアポトーシス活性化、今回のKeap1との結合を介した転写活性化などスカフォールドとしての機能が報告されている。後者の場合、p62の凝集能を介してシグナルを効率的に伝え、そのシグナルを収束させるためにオートファジーが利用されるのかもしれない。いずれにせよ、オートファジー不全にはp62の蓄積が伴うことから、オートファジー欠損マウスや細胞の解析には注意が必要であろう。
相変わらずオートファジーを複雑にする分子であるが、暫くつき合って行こうと思う。

本研究は、東北大学の山本雅之先生、福島県立医科大学の和栗聡先生、同志社大学の小林聡先生らとの共同研究で行なわれました。ここに深く感謝致します。

   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局