PubMedID |
20404107 |
Journal |
J Cell Biol, 2010 Apr 19;189(2);211-21, |
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Title |
PINK1 stabilized by mitochondrial depolarization recruits Parkin to damaged mitochondria and activates latent Parkin for mitophagy. |
Author |
Matsuda N, Sato S, ..., Hattori N, Tanaka K |
東京都臨床医学総合研究所 蛋白質リサイクルシステムの異常と疾病プロジェクト 松田憲之 2010/04/22
若年性パーキンソン病の発症メカニズムの解明
最近 JCB に受理されたわれわれの仕事を紹介させていただきます.
パーキンソン病は患者数の多さから,病気が発症する仕組みの解明と,根本的な治療法の確立が強く求められています.われわれは家族性劣性パーキンソン病の原因遺伝子産物 PINK1 と Parkin の解析を進めています.Parkin はユビキチン連結酵素 (E3) であり,この点に関しては研究者のコンセンサスが得られていますが,その機能には諸説あって混乱が続いていました(注1).また,Parkin の E3 活性は in vitro では明瞭に示されますが,in cell では検出が困難であることも気になっていました.
PINK1 に関しても,配列からミトコンドリア局在が予想される一方で,Endogenous な PINK1 は免疫染色がうまくいかず,過剰発現すると細胞質が染まったりと,良く分からない感じでした.
転機になったのは,Parkin が膜電位を失ったミトコンドリアに移行し,それを分解に導くという NIH の Youle らの報告です [Narendra et al., J. Cell Biol 2008/詳しくは,Author の田中敦さんが 2008 年 12 月に立てられたスレッドをご参照下さい].われわれも直ちに Parkin や PINK1 とミトコンドリアの膜電位の関係に焦点を絞って解析をはじめました.そして
(1)Parkin が膜電位を失ったミトコンドリアへ移行してミトコンドリアを分解する為には PINK1 が必須であること,
(2)Parkinは普段は酵素的に不活性型に保たれているが,ミトコンドリアの膜電位が失われることによって活性型へと変換されること,
(3)一連のプロセスの最上位のイベントはミトコンドリアにおける PINK1 の膜電位依存的な切断と分解であり,この仕組みによって PINK1 が膜電位を失ったミトコンドリア上に特異的に局在化すること.
(4)上記のプロセスが Parkin や PINK1 の患者由来の変異によって阻害されること,
を見いだしました.
つまり,PINK1 は自分自身の分解制御を介してミトコンドリアの膜電位を常に監視(モニター)しており,膜電位の異常なミトコンドリアを Parkin に引き渡すことで,低品質のミトコンドリアを処分していることになります.
最近,海外のグループも立て続けに関連論文を報告しており(注2),一連の結果は「パーキンソン病が膜電位を失ったミトコンドリアに対する品質管理の不全病である」ことを強く示唆しています.病気の治療方を確立する為には,正しい発症機構の理解が欠かせません.簡単ではないと思いますが,一連の研究がパーキンソン病の根本的な治療に向けた礎となったら良いなぁと思っています.
注1:過去に報告された代表的な Parkin の機能だけでも,ER関連分解(ERAD), α-シヌクレインのユビキチン化, Cyclin E の分解, EGF 受容体の輸送, p53 の転写抑制・・などが有ります.
注2:Narendra et al., Plos Biol 8; Geisler et al., Nat Cell Biol. 12; Vives-Bauza PNAS 107... など.Youle 研から報告された Plos Biol に関しては,Author である田中敦さんがスレッドを立てて下さると思います.