Proteolysis Forum
トップ

PubMedID 20178748 Journal Cell, 2010 Feb 19;140(4);567-78,
Title Autophosphorylated CaMKIIalpha acts as a scaffold to recruit proteasomes to dendritic spines.
Author Bingol B, Wang CF, ..., Peng J, Sheng M
筑波大学生命環境科学研究科  千葉研究室    原武光輔     2010/05/06

自己リン酸化されたCaMK?αはプロテアソームをdendritic spineへ
 本論文ではシナプスにおいて豊富に存在するキナーゼであるCaMK?αが活性依存的にプロテアソームをシナプスのdendritic spineへと蓄積させるということ、CaMK?αが19S RPのRpt6のSer120をリン酸化することによって、プロテアソームの活性を上昇させること、spineにおいてポリユビキチン化された基質の分解にはCaMK?αの活性が関係していることを報告しています。

 CaMK?はCa2+/calmodulin dependent kinase ?であり、α、β、γ、δの4種類のisoformが存在することが知られており、脳においてはα、βが多く存在しておりこれらがホモマーやヘテロマーの形で12量体を形成しています。そしてこのそれぞれのisoformはcatalytic domain、autoinhibitory domain、self-association domainというドメインを有しており、不活性の状態ではautoinhibitory domainがcatalytic domainと結合しています。しかしCa2+のシナプス内への流入によりCa2+/calmodulinがautoinhibitory domainに結合することにより、catalytic domainとの結合が解消され、CaMK?は活性化します。この辺の機構に関してはCaMK?に関するreviewが出ている(Lisman et al.,2002, nature reviews neuroscience)のでそちらを参照されるのがよいかと思います。また、この論文の要となる神経細胞でのプロテアソームの局在の移動に関しては同著者らの論文(Bingol and Schuman.,2006, nature)で報告されています。

 まず筆者らはラットの前脳において26Sプロテアソームと結合するタンパク質の探索を行った。Rad23を用いたアフィニティー精製を行い、そこで得られた画分に対しMS解析を行ってCaMK?とよばれるプロテアソームと同様に活性依存的に局在の移動が起こるタンパク質が得られたためこれに着目して解析を行った。
 次にCaMK?をOEさせ、これにNMDAを投与して活性化させることによりプロテアソームのdendritic spineへの蓄積が上昇していることを確認している。また、CaMK?αのRNAi後、CaMK?αのdendritic spineへと移行できないmutantである、T305D/T306DやI205Kをトランスフェクションすると、プロテアソームのdendritic spineにおける蓄積は観察されなかった。この他にもmutantを用いた解析を行っており、その中でT286Dという自己リン酸化し、恒常的に活性化した状態と類似の構造をもつmutantについては19S制御因子のサブユニットの1つであるRpt6との結合がWTと比較し5倍以上に上昇していることを明らかにした。また、キナーゼ活性を失っているがdendritic spineへと移行することのできるmutant、K42Rではプロテアソームのdendritic spineでの蓄積は正常に起こることから、CaMK?αのdendritic spineへの移行能がプロテアソームの蓄積に関係していると述べている。
 最後に神経細胞におけるK48ポリユビキチン鎖の消失に対しCaMK?αのmutantでの違いを免疫染色で解析している。その結果、先述のT305D/T306DやI205KではK48ポリユビキチン鎖の除去がWTと比較し進行していないこと、K42RではWTと差が生じていないことからCaMK?αのdendritic spineへの移行能がポリユビキチン化されたタンパク質の除去にも関係しているということを述べています。

 本論文で神経細胞に対する刺激にどのようにプロテアソームが応答して局在の移動が起こるのかという疑問に対し、synaptic plasticityに関わるCaMK?が関係しているということを示した点が興味深く感じました。今回の論文では基質に関しては言及されていませんが、このタンパク質分解のtime courseが記憶におけるそれと類似していることをDiscussionで述べており今後の展開が待ち遠しいところです。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局