PubMedID |
20495530 |
Journal |
EMBO J, 2010 May 21; [Epub ahead of print] |
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Title |
Balanced ubiquitylation and deubiquitylation of Frizzled regulate cellular responsiveness to Wg/Wnt. |
Author |
Mukai A, Yamamoto-Hino M, ..., Komada M, Goto S |
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 駒田研 駒田 雅之 2010/05/26
受容体の分解調節による細胞のWnt応答性の制御
脱ユビキチン化酵素に関する私どもの最近の研究について報告します。この研究は、三菱化学生命科学研究所の後藤聡博士との共同研究です。
増殖分化因子の受容体の細胞膜上のレベルが低いと、細胞は増殖分化因子に十分に応答することができない。しかし逆にそのレベルが高すぎると、過剰な細胞応答を引き起こす。増殖因子受容体の過剰発現が細胞癌化の原因となることは有名である。したがって、細胞膜上の受容体量は適切にコントロールされていなけらばならない。細胞膜タンパク質のユビキチン(Ub)化は、そのタンパク質をリソソームに運んで分解するためのシグナルとして働いている。私どもはこれまでに、脱Ub化酵素UBPYが上皮細胞増殖因子EGFの受容体を脱Ub化し、“リソソームへの輸送シグナル”を外すことによりその分解を抑制することを、ヒト培養細胞レベルで見出している。今回、UBPYによるこのような細胞膜タンパク質の分解抑制のin vivoにおける意義を調べるため、ショウジョウバエを用いた解析を行った。
RNAiによりUBPYの発現を翅で特異的にノックダウンすると、翅の辺縁部における感覚毛の形成が阻害され、それに先立ち、幼虫期の翅成虫原基において感覚毛前駆細胞の欠落が観察された。感覚毛前駆細胞はモルフォゲンであるWingless/Wntによって誘導されることから、翅成虫原基においてUBPYがWntシグナリングに関与することが示唆された。ヒト培養細胞においても、UBPYの過剰発現や活性阻害によりWntの下流シグナルの活性化レベルが影響をうけ、UBPYがWntシグナリングの正の調節因子であることが示された。
その調節メカニズムを解明するため、UBPYがWntの7回膜貫通型受容体Frizzled (Fz)の分解を調節している可能性を検討した。これまでFzがUb化されることは知られておらず、私どもは今回、ヒト培養細胞においてFz4がUb化依存的にリソソームで分解されること、UBPYがFz4を脱Ub化してその分解を抑制することにより、細胞膜上のFz4量を上昇させることを見出した。UBPYを過剰発現したショウジョウバエ翅成虫原基においても細胞膜上のDFz2量が増加し、それに伴ってWntの標的遺伝子の発現、すなわち細胞のWnt応答性が上昇していた。逆にUBPYを欠損させた翅成虫原基では、細胞膜上のDFz2量の低下が見られた。したがって、翅成虫原基においてもUBPYがFzの細胞膜レベルを上昇させていることが明らかとなった。
以上、Ub化と脱Ub化のバランスによって細胞膜上のFz量が調節されていること、そしてそれが細胞のWnt応答性を制御するためのメカニズムであることが、培養細胞および多細胞生物個体レベルで解明された。Wntなどのモルフォゲンはその産生細胞からの距離に応じて濃度勾配を形成し、濃度の違いによって異なる細胞に異なる応答を誘導するとされている。本研究結果は、もしかするとこの細胞応答の違いが細胞外のモルフォゲン濃度のみならず、標的細胞上の受容体レベルによっても制御されている可能性を暗示するものかもしれない。しかし、この魅力的な仮説を裏付けるデータは残念ながら持ち合せていない。