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PubMedID 20381137 Journal Cell, 2010 Apr 16;141(2);290-303,
Title Ragulator-Rag complex targets mTORC1 to the lysosomal surface and is necessary for its activation by amino acids.
Author Sancak Y, Bar-Peled L, ..., Nada S, Sabatini DM
大阪大学大学院 医学系研究科   医化学教室(岩井一宏研究室)    浅野 剛史     2010/06/07

アミノ酸に応答したmTORC1の活性化がリソソーム膜上で起こる
mTORC1複合体は細胞内外の栄養に応じて活性化し、タンパク質合成促進やオートファジーの抑制などを行う栄養シグナル伝達のマスター分子である。近年、アミノ酸に応答したmTORC1活性化の分子機構の解明が目覚ましく進んでいる。


筆者らはこれまでにRagA/B/C/Dタンパク質からなるRag複合体というGTPaseが、アミノ酸に応じてmTORC1複合体(中のRaptor)に結合し、mTORC1を活性化に導くことを示していた。今回の論文では以下の点を示した。


1) mTORC1複合体はアミノ酸が欠乏すると細胞質に広く存在するが、十分にあればリソソームに局在する。

2) Rag複合体はリソソーム膜上に存在するRagulator複合体(MP1,p14,p18の3つのタンパク質からなる)と常に複合体を作っている。アミノ酸に応答してmTORC1はRag複合体と結合することでリソソーム膜上に局在する。すなわちRagulator複合体の発現低下・欠損ではmTORC1はリソソーム膜上に局在できずアミノ酸に応じたmTORC1の活性が低下する。

3) Ragulator複合体やRag複合体に依らずmTORC1複合体の構成成分Raptorがリソソーム膜上にあれば、mTORC1複合体はリソソーム膜上に局在しアミノ酸の有無にかかわらず活性化する。

4) 最後に、GTPaseであるRhebの局在および機能もアミノ酸に応じたmTORC1の活性化には重要である。


この論文では、アミノ酸に応答したmTORC1の活性化がリソソーム膜上で起こることをつきとめ、mTORC1を膜上にとどめるのに必要な足場となるタンパク質群を同定した点でとてもインパクトがある。ちなみに酵母ではRag複合体のホモログはあるがRagulator複合体はなく、必ずしも同じように対応しないようである。
mTORC1がアミノ酸が供給される場所で活性化するという点は面白く、mTORC1がリソソーム膜上に局在する意味、例えばリソソームから供給されるアミノ酸がmTORC1に活性化シグナルを伝えているであろうか?具体的な経路は?一方でRhebの役割は何か?…などなど疑問が尽きず、アミノ酸感知システムの今後の解析が楽しみである。
   
   本文引用

1 東京医科歯科大学・細胞生理学分野  水島昇研究室  久万亜紀子 Ragulator 2010/06/17
mTORのリソソーム膜上への局在がアミノ酸で制御されているなんて、しかもそれが活性化に必要なんて、とてもおもしろいです。出芽酵母にはRagulatorホモログはないそうですが、Torは液胞膜上にいるので、やはりリソソーム(液胞)局在の意味が気になります。しかもオートファジー因子Atgが集まるPASができるのも液胞(近傍)です。

実は私たちのラボも、共同研究でRag結合タンパク質としてRagulatorを見つけていたのです!でも遅かった・・・。留学後の最初のプロジェクトだったのに、あっさり消えてしまいました(涙)。

mTOR活性がどのようにアミノ酸によって制御されているのかという問題は長年の謎なので、この論文のインパクトは大きいです。
      
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2 東京大学・分子細胞生物学研究所  膜蛋白質解析分野  前田達哉 酵母のRagulatorホモログ 2010/08/04
元報ではRagulatorには酵母ホモログがないとのことでしたが、酵母にも保存されていると主張する報告がありました。新しい論文ではありますが、新たに項目を立てることなくコメントとしてご紹介します。

Structural Conservation of Components in the Amino Acid Sensing Branch of the TOR Pathway in Yeast and Mammals.
J Mol Biol. 2010 Jul 23. [Epub ahead of print]
PMID: 20655927

酵母のRag複合体ホモログであるGtr1/Gtr2は、TORC1活性化とは別の、しかし栄養の取り込みやミクロオートファジーの制御といった、いかにも関連のありそうな文脈で同定されて来ました。さらに同じスクリーニングで同定された(同じステップで機能している)タンパク質と共に、EGO複合体あるいはGSE複合体と呼ばれる複合体として機能していると報告されていました。この複合体は、Gtr1/Gtr2に加え、少なくともSlm4(またはEgo3/Gse1/Nir1)とMeh1(またはEgo1/Gse2)と呼ばれるタンパク質から成っています。

本論文は、Slm4の結晶構造を決定し、それがRagulatorの構成因子であるMP1とp14とに似ていることを示しています。3つのタンパク質をアラインメントしても共通するアミノ酸残基は5%程度で、PSI-BLASTを何度も廻してやっと引っかかってくる程度の相同性ですが、立体構造は確かにとても良く似ています。Meh1の方は残るp18と似ているかというと、配列上は全く似ていないけれどいずれもN末端に脂質修飾されると考えられる配列があることと、いくつかの構造予測からの特徴とは共通しているようですが、はっきりしたことは現状ではわかりません。

MP1とp14は良く似た構造を持ち、対称性の高いヘテロダイマーを形成するのですが、Gse1は同様なダイマー形成は出来ない構造になっていて、これが結晶化によるアーティファクトなのか、それとも別の様式でダイマーになっているのかは今のところ分かりません。

mTORC1の重要な制御因子として報告されたRagulatorですが、酵母のホモログが無いとのことだったし、Gtr1/Gtr2のノックアウト株の表現型も哺乳類細胞でRagをノックダウンした場合よりはずっとmildなので、私自身はこの複合体は栄養による制御機構の最も本質的な部分を担うものではないと捉えていたのですが、再考が必要なようです。
      
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3 東京大学・分子細胞生物学研究所  膜蛋白質解析分野  前田達哉 訂正 2010/08/04
すみません。「Gse1は同様なダイマー形成は出来ない構造になっていて、」のところは「Slm4は同様なダイマー形成は出来ない構造になっていて、」と読み替えてください。

Slm4とMeh1は同定された経緯によってまちまちな名前で呼ばれていますが、Slm4とMeh1が公式名です。
      
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4 東京医科歯科大学  細胞生理  水島昇 似てる! 2010/08/06
前田さん、大変面白い論文を紹介していただきどうもありがとうございました。これは非常に似ていますね。納得してしまいました。栄養のセンシングにおける液胞・リソソーム系の重要性がますますクローズアップされてきたと思います。なぜ液胞・リソソームで感じるのが良いのか、興味深いです。
      
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