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PubMedID 20725033 Journal Nature, 2010 Aug 19;466(7309);941-6,
Title Non-canonical inhibition of DNA damage-dependent ubiquitination by OTUB1.
Author Nakada S, Tai I, ..., Suda T, Durocher D
慶應義塾大学医学部 総合医科学研究センター  咸臨丸プロジェクト    中田慎一郎     2010/08/24

DNA損傷依存的なユビキチン化のOTUB1による通常とは異なる抑制
慶応大学 咸臨丸プロジェクトの中田と申します.班員ではないのですが,ちょっとお邪魔させていただいて,自分たちの論文を紹介させていただきます.

この論文での新発見は2点
- DNA損傷依存性に起こるクロマチンユビキチン化が脱ユビキチン化酵素OTUB1により,「脱ユビキチン活性非依存性」に抑制されている.
- ユビキチン化機構にはE2レベルでの抑制系が存在する
です.

以下,要約です.

 DNA二本鎖損傷部位ではクロマチンのリン酸化とポリユビキチン化がおこっている.これにより,DNA損傷修復や細胞周期チェックポイントが制御されている.我々はこれまでに,ユビキチン化を担うE3 ubiquitin ligaseとしてRNF8とRNF168を,脱リン酸化を担う脱リン酸化酵素としてprotein phosphatase 4を発見してきた.次は,ユビキチン化を抑制する脱ユビキチン化酵素を発見しようということで,我々はRNA干渉法を用いたスクリーニングを行い,最有力候補としてOTUB1を見つけた.
 OTUB1をノックダウンするとクロマチンユビキチン化がDNA損傷後長時間遷延し,過剰発現させるとクロマチンポリユビキチン化が抑制された.驚いたことに,クロマチンポリユビキチン化の抑制には,OTUB1の脱ユビキチン活性は必要でなかった.また,in vitroでもOTUB1はその脱ユビキチン活性非依存性にユビキチン鎖の生成を阻害した.これらの結果から,OTUB1はユビキチン鎖を切断しているのではなく,クロマチンのユビキチン化そのものを抑制していると考えられた.
 そこで,OTUB1のinteracting proteinを見つけるため,プロテオミクス解析(免疫沈降-液体クロマトグラフィ-タンデムマススペクトロメトリー:IP-LC-MS/MS)を行い,ユビキチンおよびいくつかのE2 conjugating enzymeがOTUB1と結合することを見いだした.この中には,DNA損傷依存性クロマチンユビキチン化に必須のUBC13も含まれていた.In vitroのbinding assayでは,OTUB1とUBC13は直接結しており,この結合は,UBC13にユビキチンがchargeしているときに強いことが示された.ユビキチンがチャージしたUBC13とOTUB1との結合には,OTUB1のN末(おそらくチャージしたユビキチンとの結合に必要)およびOTU domain(おそらくUBC13との結合に必要)が必要であった.細胞溶解液を用いた免疫沈降においては,OTUB1 wild typeと活性中心変異体(C91S)はUBC13と結合し,N末のdeletion mutant(ΔN)やOUT domain mutant(D88A/C91S/H265A:ASA)はUBC13と結合しなかった.さらに,UBC13と結合できないΔN やASAは,in vivoでDNA損傷依存性/RNF168-UBC13依存性クロマチンポリユビキチン化を阻害できず,in vitroでもポリユビキチン鎖の形成を阻害できなかったことから,OTUB1はUBC13と結合し,そのE2活性を阻害していると考えられた.
 DNA損傷依存性クロマチンユビキチン化は,上流でSer/ThrキナーゼのATMにより制御されている.薬剤性にATMを阻害すると,homologous recombinationというDNA修復機能が現弱してしまう.このとき,OTUB1の発現をRNA干渉法により抑制すると,(おそらくUBC13の抑制が外れるので)クロマチンユビキチン化の下流シグナルが回復し,homologous recombinationも回復する.
 OTUB1と結合するE2はUBE2D familyとUBE2E familyであり,in vitroにおいて,OTUB1はこれらのE2が関係するユビキチン鎖の形成を阻害した.In vivoでもOTUB1によるUBE2D, UBE2Eの制御があるのかは不明だが,ユビキチン化反応において,E2レベルでの制御が存在することが明らかとなった.

以下,妄想です.

- OTUB1を抑制すると,DNA損傷応答が増強すると考えられるので,OTUB1阻害により,DNAを傷つけるタイプの癌化学療法や放射線療法の効果を増強できるかもしれない.
- OTUB1阻害により,ATMの変異が原因である毛細血管拡張性運動失調症のような放射線高感受性遺伝性疾患の症状を緩和することができるかもしれない.

課題

DNA損傷時には,OTUB1によるUBC13の抑制が外れるはずだが,それがどのような分子機構によるのか,解明しなくてはならない.

以上になります.お邪魔いたしました.
   
   本文引用

1 北海道大学大学院 医学研究科  第二内科  坊垣 幸 ATMの抑制 2010/08/25
OTUB1のRNF干渉法による抑制で,「クロマチンユビキチン化の下流シグナルが回復する」という点が,今ひとつ判然としないのですが,お教えいただけると嬉しいです.

RNF168はATM下流で働くという認識でしたので,ATM inhibitorを使用した際にg-H2AX,MDC1,RNF8やRNF168のIRIFは減弱すると思うのですが,ATM inhibitor処理をしたsiOTUB1の細胞ではこれらのIRIFは回復あるいは増強しているのでしょうか?その場合は,どのようにMDC1やRNF8,RNF168がリクルートされていくのかなぁ,と思いまして….あるいはRNF168のIRIFは減弱しつつ53BP1のIRIFがレスキューされているのなら,その機序が知りたいのですが….

また,ATMを抑制した時にATMの働きを肩代わりする他のキナーゼの制御にUBC13が関わっている可能性もあるのかなぁ,と漠然と思ったりしたりしたのですが.

ご意見をお聞かせください.
      
   本文引用
2 慶應義塾大学医学部 総合医科学研究センター  咸臨丸プロジェクト  中田慎一郎 Re: ATMの抑制 2010/08/25
坊垣 幸 先生

DNA二本鎖損傷時のATM依存性シグナルカスケード:
ATM→ヒストンH2AXリン酸化→MDC1→RNF8→RNF168/UBC13→クロマチンポリユビキチン化→BRCA1,53BP1(→homologous recombination:HR)
についてのコメントありがとうございます.

 先生のおっしゃるとおり,ATM inhibitorで処理した細胞では,放射線照射時におこるヒストンH2AXのリン酸化,MDC1のDNA damage siteへの再局在(免疫染色でirradiation induced foci: IRIFとして観察できます)は著しく減弱します.おそらくその下流となるRNF8,RNF168のIRIFも減弱すると思われます.ところが,ATM阻害によってこのシグナルカスケードが最下流まで強く抑制されるかというと,そうではないようです.例えば,RNF8の発現を抑制した細胞ではクロマチンポリユビキチン化の下流シグナルである53BP1のIRIF形成が強く抑制されますが,ここにRNF8の下流/クロマチンポリユビキチン化の上流で機能するRNF168を過剰発現させると,53BP1のIRIF形成がレスキューされます(Cell. 2009 Feb 6;136(3):420-34. PMID: 19203578).また,ATMを薬剤性に抑制しても,53BP1のIRIF形成は完全には抑制されません(本論文およびNature. 2009 Dec 17;462(7275):935-9. PMID: 20016603).また,homologous recombinationも完全に抑制されるわけではなく,(報告により成績はさまざまですが)半分程度となります.

これらのことから,
ATM→ヒストンH2AXリン酸化→MDC1→RNF8→RNF168/UBC13→クロマチンポリユビキチン化→BRCA1,53BP1(→homologous recombination)
というシグナルカスケードにおいてATMを抑制しても,RNF8→RNF168/UBC13→クロマチンユビキチン化のあたりでシグナルが少しエンハンスされているのではないかと考えられます.わかりにくいかもしれないので,たとえを使いますと,ATM阻害剤により,ATMからMDC1あたりまでは,5%くらいのアクティビティにシグナルが抑えられていても,クロマチンポリユビキチン化以降は40%くらいのアクティビティがあるといった感じでしょうか.
 本論文では,ATM阻害により減弱した53BP1のIRIF形成が,OTUB1のノックダウンを行うことでレスキューできることを示しました.これは,おそらく,OTUB1による抑制がはずれることでUBC13がフルパワーで機能できるようになり(上記のRNF168過剰発現の時と同じような感じでしょうか),RNF168依存性クロマチンポリユビキチン化以降シグナルがレスキューされるのだと思います.(たとえば,もともと40%のアクティビティだったところが,OTUB1のノックダウンによって80%位のアクティビティになったという感じです.)今回は(定量評価ができるほどうまく免疫染色ができないので)BRCA1のIRIF形成については評価を行いませんでしたが,53BP1と同様にOTUB1のノックダウンによってBRCA1のDNA損傷部位へのリクルートもレスキューされ,HRが機能するようになるのだと考えています.
 やや難解な回答になってしまいました.すみません.ご不明な点がありましたら,またご指摘ください.
      
   本文引用


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