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PubMedID 20713601 Journal J Cell Biol, 2010 Aug 23;190(4);637-50,
Title BAG-6 is essential for selective elimination of defective proteasomal substrates.
Author Minami R, Hayakawa A, ..., Yokosawa H, Kawahara H
首都大・理工・生命科学  細胞生化学    川原 裕之     2010/11/09

BAG-6/BAT3は、新合成不良タンパク質の認識と分解に関与する
最近発表した私達の研究成果の紹介です。
 BAG-6(別名BAT3, Scythe)は、ヒト主要組織適合抗原複合体遺伝子座(Class III領域)にコードされた機能不明のユビキチン様タンパク質として約20年前に報告されました。本論文で示す実験は、BAG-6がCL1デグロンを特異的に認識し、これをプロテアソーム系へリクルートすることを見いだしたところから始まります。CL1デグロンは酵母PMD1遺伝子のスプライス不良産物に由来し、C末端疎水性ストレッチを特徴とする分解誘導配列(ヒト細胞においても)です。

 BAG-6は、MG132存在下でポリユビキチン化されたCL1デグロン基質を免疫共沈降するのですが、私たちの発見は、この系からCL1デグロン基質を取り除いてもBAG-6が内在性ポリユビキチン化タンパク質群を共沈降させうることでした。BAG-6と共沈降するポリユビキチン化タンパク質は、タンパク質新合成を止めると消失します。これらの実験結果は、MG132処理で蓄積する新合成(不良)タンパク質が、BAG-6のメインターゲットであることを示唆していました。

 新合成不良タンパク質は、様々な条件下で凝集体を形成することが知られています。例えば、MG132処理により誘導されるアグリソームや、ピューロマイシン処理で誘導されるALISなどが代表的ですが、これら凝集体はユビキチンポジティブであると同時に、BAG-6 ポジティブであることがわかりました。さらに、ピューロマイシン処理で生成する新合成不良タンパク質をBAG-6は認識して、その代謝的安定性を規定することも明らかになりました。これらの結果は、BAG-6の役割が、凝集し易い不良新合成タンパク質の代謝にあることを示しています。

 新合成不良タンパク質のプロテアソーム分解産物が、MHC class I抗原提示に必須であることが報告されています。BAG-6が新合成不良タンパク質の代謝に必要であることから、私たちはMHC class I抗原提示におけるBAG-6の機能を調べてみました。その結果、BAG-6をノックダウウンした細胞では、細胞表面に現れるMHC class I分子が減少することが明らかとなりました。

 BAG-6は酵母にホモログが見つかっていませんが、BAG-6と相互作用する蛋白質Ubl4a, TRC35、あるいはTRC40の酵母ホモログは一連のGet遺伝子産物として同定され、C末端に疎水性領域を持つ新合成膜蛋白質の運命を決定しています(Mariappanら, 2010)。BAG-6/BAT3が、どのように露出した疎水性領域を捕まえ、如何にプロテアソームにリクルートしているかの機構を明らかにすること、およびホニュウ類の抗原提示におけるBAG-6/BAT3の必須性を遺伝学的に証明することが今後の重要な課題と考えています。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局