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PubMedID 21333342 Journal J Allergy Clin Immunol, 2011 Feb 17; [Epub ahead of print]
Title Crucial role for autophagy in degranulation of mast cells.
Author Ushio H, Ueno T, ..., Okumura K, Nakano H
順天堂大学大学院医学研究科 アトピー疾患研究センター  分子生物学部門    牛尾博子     2011/02/25

本論文は、マスト細胞における顆粒の分布と一致した恒常的なオートファゴゾームの形成とその欠損がマスト細胞の機能に及ぼす影響を調べたものです。Atg7の欠損は、マスト細胞の増殖・分化に影響を与えませんが、脱顆粒反応において、顆粒内酵素β-hexosaminidaseやヒスタミンの放出の低下をもたらすことを明らかにしました。
そもそもこの仕事は、当大学でAtg7欠損マウス用いた研究が盛んに行われているということと、私がマスト細胞屋さんであるという安直な動機で始まりました。マスト細胞は分化多能性造血幹細胞に由来し、末梢血中を前駆細胞のまま循環し、組織に到達してから最終的にマスト細胞として分化します。その分化機構には謎が多く、未だに全容は解明されているとはいえません。幸い、マウスの骨髄からは成長因子を加えるだけで簡単にマスト細胞を誘導してくることが可能で、最初に通常の培養状態でマスト細胞の顆粒に一致してLC3-IIの発現がドット状に観察された時は驚きでした。その後、免疫電顕で顆粒のどこにLC3が発現しているのか調べたりしていくうちに、マスト細胞の顆粒形成の詳細が十分解明されていないこともわかってきました。そこで“Atg7欠損マスト細胞では顆粒が形成されないのでは?”と期待しましたが、Atg7欠損マウスのマスト細胞でもふつうに顆粒が形成されてきて(厳密に顆粒形成に異常がないとは言いきれませんが)がっかりしました。では“顆粒の放出は?”と調べたら、脱顆粒は低下しているのですが、まったく消失するわけではないという、これまた中途半端な結果で悩ましげでした。メカニズムとして、顆粒分泌に関係するSNARE分子とLC3-IIとの相互作用なども検討しましたがはっきりした結果は得られませんでした。論文では、細胞外に顆粒内容物とLC3-IIが一緒に分泌されることから、LC3-IIは顆粒膜に存在するのではなく、顆粒の中にあるmultivesicular bodies (MVB)のような構造を形成し、顆粒内容物の代謝・分泌(移動)に関与しているのではと考えていますが、今のところはっきりとした証拠はありません。なにか良いアイデアがあったらご教示ください。これを機にオートファジーワールドに少し脚を突っ込みつつ、謎多きマスト細胞の顆粒形成の詳細に迫っていけたらと思っています。
   
   本文引用



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