Proteolysis Forum
トップ

PubMedID 21295580 Journal J Mol Biol, 2011 Feb 3; [Epub ahead of print]
Title Non-Proteolytic Functions of Calpain-3 in Sarcoplasmic Reticulum in Skeletal Muscles.
Author Ojima K, Ono Y, ..., Granzier H, Sorimachi H
独)農研機構 畜産草地研究所/都臨床研    食肉プロテオーム/カルパインPT    尾嶋 孝一     2011/02/28

プロテアーゼのプロテアーゼ以外の機能について
最近受理された論文の紹介です。カルパイン3は骨格筋特異的に発現するプロテアーゼです。私達はカルパイン3のプロテアーゼ活性を不全にしたマウス(Capn3cs/cs)を作出・解析することにより、カルパイン3のプロテアーゼ活性不全が筋ジストロフィーの原因になることを以前の論文で発表しました(J. Clin. Invest. (2010)120:2672-83)。しかし、Capn3cs/csマウスの筋ジストロフィー症状は、既に報告されていたカルパイン3ノックアウト(Capn3-/-)マウスの筋ジストロフィー症状よりも軽微でした。私達が作出したCapn3cs/csマウスではカルパイン3のプロテアーゼ活性はありませんが、カルパイン3分子は骨格筋で発現しています。一方、Capn3-/-マウスではカルパイン3分子そのものが存在しません。そのため私達はCapn3cs/csマウスがCapn3-/-マウスよりも軽微な筋ジストロフィー症状を示すのは、カルパイン3がプロテアーゼ以外の機能を持つためであると考え研究を進めました。

Pull-downおよび免疫沈降等によりカルパイン3は筋小胞体に存在し、リアノジン受容体を中心とするタンパク質複合体に含まれることを見出しました。骨格筋が収縮するには筋小胞体に存在するリアノジン受容体を介してCa2+が細胞質内へ放出されます。Capn3-/-マウスでは筋小胞体から放出されるCa2+量が30%程度減少するという他のグループの報告に対して、私達のCapn3cs/csマウスではCa2+放出量は野生型マウスとは変わらない結果を得ました。この結果はリアノジン受容体が正常にCa2+を放出するためには、カルパイン3がリアノジン受容体複合体に存在することが必要であることを示しています。つまり、リアノジン受容体が正常に機能するためにはカルパイン3はリアノジン受容体複合体においてプロテアーゼ以外の役割を果たしていることになります。

通常、骨格筋細胞ではCa2+放出が起こるリアノジン受容体付近ではカルパイン3を活性化させるために充分なCa2+濃度に達していると考えられます。このような筋細胞内環境の中でリアノジン受容体複合体に存在するカルパイン3のプロテアーゼ活性がどのようなメカニズムで制御されているのかは不明ですが、非常に興味深い点だと思います。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局