PubMedID |
21471734 |
Journal |
Autophagy, 2011 Jul 1;7(7); [Epub ahead of print] |
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Title |
Liver autophagy contributes to the maintenance of blood glucose and amino acid levels. |
Author |
Ezaki J, Matsumoto N, ..., Kominami E, Ueno T |
順天堂大学医学部、生化学第一講座 生化学第一講座 江崎淳二 2011/04/12
肝臓のオートファジーは血糖値およびアミノ酸レベルの維持に貢献している
最近ようやく受理された私たちの論文について紹介させていただきます。
飢餓誘導によって起こるオートファジーで産生されるアミノ酸が生存のために重要であるというのは共通の認識ですが、これらのアミノ酸がどのような貢献をするのかという問題については、特に成体においてあまり調べられてはいません。私たちは肝オートファジーで生成されるアミノ酸がどのような運命をたどるのかを調べるために、野生型および肝臓特異的なオートファジー欠損マウス(Atg7F/F:Mx1)を絶食下で比較しました。マウスの絶食では摂食時間の同調が極めて困難なため、あらかじめ24時間絶食させたマウスに2時間食餌を与えてオートファジーを基底レベルに抑え、そこから絶食を開始して経時的にサンプルリングを行いました。LC3-IIのフラックス増加を指標として調べた結果、野生型マウスでは飢餓によるオートファジーは絶食24時間後に強く誘導されており、電顕による観察でもこのことを裏付けるようにautophagic vacuoleの著しい増加が認められました。この時、肝臓におけるBCAAを中心とする一群(Val, Leu, Ile, Ser, Thr, Met, Asn, Phe, Tyr, Lys, Arg)のアミノ酸濃度はオートファジーの誘導と同時に一過的かつ顕著に上昇しました。興味深いことにいくつかのアミノ酸は、更に血漿および筋肉においても肝臓と同期して上昇を示し、肝臓から放出されたアミノ酸が血液を介して末梢に至ることを観察することができました。一方、この一過性のアミノ酸上昇は肝オートファジー欠損マウスでは認められず、このアミノ酸上昇が肝臓のオートファジーによるものであることが確認されました。このオートファジーの誘導は肝グリコーゲンの枯渇、血糖値およびインスリンレベルの低下と同時に起こることから、インスリン低下によるmTORの抑制が引き金になっていると考えられます。事実、この時AKTおよびS6Kの脱リン酸化が認められ、グルコース投与によってインスリン濃度を上昇させるとオートファジーの誘導は起こらなくなります。
飢餓誘導によるオートファジーが肝グリコーゲンの枯渇や血糖値、インスリンレベルのの低下を契機として起こることから、肝臓におけるグルコース利用がオートファジーと深く関わる可能性が考えられます。そこで絶食中の血糖値の変化を更に調べると、野生型マウスではアミノ酸の一過性増加が起こった24時間以降で上昇に転じましたが、ノックアウトマウスではこの程度が小さく、野生型に比べて有為に低い血糖値を示しました。このことからアミノ酸の少なくとも一部は、血糖を維持するために糖新生に寄与している可能性が高いことが示唆されました。
残念ながら技術的問題から、オートファジーで生じたアミノ酸からの糖新生を、安定同位体などで直接証明するにはいたっていません。しかし、最近急速に進んでいるメタボロミクスの技術などを用いることで、中間体が複雑に絡み合うこれらの過程を解析できる日も近いと考えています。
今回の実験で最も問題になったのは最初に述べたように絶食時間の同調でしたが、その他にマウスの個体差が実験を難しくしていました。体重の差はそのままグリコーゲンや脂肪などのエネルギーの蓄積に直接影響するため、週齢と体重には気を使いました。また、血糖値は小さな要因でも変化を起こし、同じケージにアグレッシブなマウスが一頭入ると、そのケージのマウスの血糖値はかなり高いものになり、バラツキの原因となってしましました。