PubMedID |
21444722 |
Journal |
Mol Cell Biol, 2011 Mar 28; [Epub ahead of print] |
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Title |
Distinct mechanisms of ferritin delivery to lysosomes in iron-depleted and iron-replete cells. |
Author |
Asano T, Komatsu M, ..., Mizushima N, Iwai K |
大阪大学大学院 医学系研究科 医化学(岩井一宏 研究室) 浅野 剛史 2011/04/13
鉄貯蔵たんぱく質フェリチンの選択的なリソソームへの輸送
私達の研究室が発表した論文のご紹介です。
フェリチンは細胞質に存在する鉄貯蔵たんぱく質である。鉄は生存に必須の微量元素であるが、過剰に存在すると生体分子に傷害を与えてしまうため、哺乳類細胞では鉄過剰時にフェリチンの発現を増加させ、余剰な鉄を安全に蓄えることで鉄の毒性を回避している。
細胞内の鉄が不足すると、フェリチンに蓄積された鉄が利用されるかはこれまで明らかではなかった。今回の論文では、鉄欠乏時にフェリチンが分解されて蓄積された鉄が利用されている可能性を検討することからこの問題に取り組んだ。
その結果、細胞内の鉄が不足するときには、フェリチンはマクロオートファジーによってリソソームに輸送され分解されていた。しかしフェリチンの鉄を利用するためには、リソソームでの分解自体ではなくリソソームが酸性であることが重要であった。これはフェリチンに貯蔵された3価の鉄が酸性下で可溶性が増すため、効率的な鉄の取り出しにリソソームの酸性化が必要であるからと考えられる。すなわち鉄欠乏時ではてマクロオートファジーがフェリチンを「分解する」目的ではなく、リソソームに「輸送する手段」として利用されているのである。
また興味深いことに、MEF細胞などの正常細胞では鉄欠乏時だけでなく鉄が十分に存在する場合でもフェリチンはリソソームに運ばれ分解されていた。一方、HeLa細胞等の癌細胞株では鉄欠乏時のみフェリチンがリソソームに輸送され分解されていた。
鉄過剰の状態でフェリチンを分解し続けると細胞に必要以上に鉄が供給され鉄の毒性が発揮されてしまうと予想される。癌細胞では鉄過剰の状態が長く続いても生存できるが、正常細胞ではすぐ死滅するという実験結果と併せて考えると、癌細胞では鉄過剰時にフェリチンを分解せず鉄を内部に蓄えることで鉄の毒性から逃れるという戦略をとっていると考えられる。
ちなみに鉄が十分に存在するときの正常細胞におけるフェリチンのリソソームへの輸送にはマクロオートファジーもCMAも関与は少なく、今のところ経路は不明である。
フェリチンが細胞内の鉄のavailabilityによってリソソームへの輸送経路が選択されていること、また正常細胞と癌細胞でそのturnoverが異なることは、興味深い発見でした。鉄が多くのたんぱく質の機能に必要なことは周知のことですが、細胞内での鉄自体の挙動は、実は殆ど分かっていません。今回はフェリチンに貯蔵された鉄の動態を追いましたが、今後細胞内の鉄の動態やその機能にも目を向けて解析を進めたいと思います。