Proteolysis Forum
トップ

PubMedID 21839922 Journal Dev Cell, 2011 Aug 16;21(2);358-65,
Title Selective Autophagy Regulates Insertional Mutagenesis by the Ty1 Retrotransposon in Saccharomyces cerevisiae.
Author Suzuki K, Morimoto M, Kondo C, Ohsumi Y
東京工業大学 フロンティア研究機構  大隅良典研    鈴木邦律     2011/08/30

トランスポゾンの転移が選択的オートファジーによって抑制される
最近発表した私たちの論文を紹介します。

トランスポゾンはゲノム内を転移することができる「動く遺伝子」である。トランスポゾン由来の配列は、ヒトゲノムのほぼ半分、高等植物に至ってはゲノムの70%以上を占めていることが知られている。トランスポゾンは自身が宿主のゲノム中を動き回る特性を持つことから、宿主の遺伝子発現を変化させたりゲノムを組み換えたりして、生物の環境適応や進化に大きく貢献してきたと考えられている。

出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの中で最も多数を占めるトランスポゾンはTy1である。Ty1はトランスポゾンの中でもレトロトランスポゾンと呼ばれるグループに属しており、自身をRNAに転写した後、DNAに逆転写して転移する。Ty1の生活環は感染性がないことを除いてはヒト免疫不全ウィルス(HIV)などのレトロウィルスと類似していることから、Ty1はレトロウィルスの生活環を研究する際のモデル系として使用されることも多い。

Ty1は細胞質にTy1 virus-like particle(Ty1ウィルス様粒子;Ty1 VLP)を形成した後、宿主のゲノムに転移する。この論文ではTy1 VLPが選択的オートファジーによって細胞質から除去されること、その結果としてTy1の転移が抑制されていることを明らかにした。また、Ty1 VLPの選択的オートファジーには、レセプターであるAtg19が必要であった。

選択的オートファジーにより、トランスポゾンの転移が抑制されていることから、選択的オートファジーが、真核生物のゲノムの安定性に寄与していることが考えられる。例えば、哺乳動物では、オートファジーの破綻が腫瘍の発生につながることが知られている。今回の報告により、その原因のひとつがトランスポゾンによるゲノムの不安定化である可能性を視野に入れてもいいだろう。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局