Proteolysis Forum
トップ

PubMedID 21966472 Journal PLoS One, 2011;6(9);e25257,
Title Yeast methylotrophy and autophagy in a methanol-oscillating environment on growing Arabidopsis thaliana leaves.
Author Kawaguchi K, Yurimoto H, Oku M, Sakai Y
京都大学農学研究科 応用生命科学専攻  制御発酵学分野 阪井研    阪井康能     2012/01/16

自然界における酵母のオートファジー:植物上での生存戦略として
 昨年、9月に発表した論文ですが、多くの方から反響と励ましを頂き、遅ればせながら本フォーラムでも紹介させて頂きます。
 Pichia pastorisなど、メタノールを唯一の炭素源として生育するメタノール資化性酵母は、メタノールを代謝する酵素群を含む大きなペルオキシソームを発達させること、またメタノール培地からの炭素源変換によりペキソファジーを誘導できることから、ペルオキシソーム合成・分解の分子メカニズムを解析するモデル生物として知られています。しかし、どうしてメタノール酵母が巨大なペルオキシソームを持ち、顕著にペキソファジーが誘導されるのか、メタノール誘導性がどのような環境適応を意味するのか、など、オートファジーも含めて、メタノール資化性酵母におけるペルオキシソーム・ホメオスタシスの生理学的な意味については、全くわかっていませんでした。
 今回、メタノール資化性酵母C. boidiniiとP. pastorisが、植物Arabidopsis thaliana葉上では、2週間で3−4度の分裂、ゆっくりと増殖することを見いだしましその生理学を解析したところ、植物葉上での増殖には、基本的なオートファジー分子であるAtg1やAtg8のみならず、ペキソファジー特異的な分子であるAtg30も必要なことがわかりました。
 葉上のメタノール濃度を直接定量できる細胞センサーを開発し、発芽後、2−3週間の若い植物葉上のメタノールを定量すると、その濃度は昼夜で大きく変動、暗期に高濃度25 mM、明期にはほとんど存在しませんでした。暗期には、メタノール代謝に必要なメタノール誘導性遺伝子の発現とともにペルオキシソーム数が増え、逆に明期にはその数が減少していることを見いだしました。実際、ペルオキシソーム酵素の分解を追跡すると、ペキソファジーは明期になった直後、主に午前中に起きていました。上述の酵母の葉上でのゆっくりとした増殖には、メタノールを炭素源としており、酵母は2週間の間に、14サイクルの炭素源昼夜変動の中で3−4回分裂するということになります。一方、葉上の酵母を回収して生化学的解析を行うと、脂質化Atg8、ならびにGFP-Atg8のプロセッシングが、ともに、明暗期に関わらず観察されたことから、オートファジーとしては一日中、起きていますが、ペキソファジーは調節されていることになります。
 若い植物上でメタノールはこのように昼夜変動していましたが、老化したり、枯れた植物上では、このようなメタノールの変動はなく250 mMと高濃度で、酵母は増殖しませんが、酵母内のペルオキシソームは菌体内容積の数十%を占めるほど、発達していました。これは枯れた葉の上では炭素源以外の栄養分が枯渇しており、ペルオキシソームは、その中でタンパク質を備蓄するために発達していると解釈しています。本酵母は、植物が生きている時と、死んでからとでその生理が変わっており、メタノールが酵母にとって、それを知るシグナルになっているのかもしれません。
 以前、我々は、植物病原性カビが、植物に侵入するためにオートファジーが必要であることを報告していますが(Plant Cell 2010)が、カビは植物上で胞子から胞子と付着器の2細胞へと分化するため、オートファジーが分化の過程に必要なのか、単に増殖・栄養に必要なのかは、わかりませんでした。一方、酵母には、このような分化の過程はありませんが、atg変異株では、通常、実験室で使用される培地では、growthに対するknock-out effectは見られません。しかし、今回の結果は、自然界で起こるようなゆっくりとした増殖にオートファジーが必要であることを確認したもので、酵母におけるオートファジーの、生存戦略における重要性を明らかにできたと考えています。
 通常、フラスコや試験管の中でしか培養されることのなかった酵母を、自然界に近い条件に放り出すとオートファジーの意味がこんなによく見えたということになるでしょうか。酵母においても、まだまだ機能未知の遺伝子、これまで実験室の中で見いだすことのできなかった表現型が多くあると考えられます。自然界に近い条件での遺伝子破壊株の生育を、分子細胞生物学の立場から追跡することで、生物間相互作用や生存戦略など、酵母の自然界における新しい生理機能が見えてくるのでは、と期待しています。
 なお、P. pastorisでも同様の研究を行おうとしましたが、その葉上での増殖を定量的に追跡することができず、C. boidiniiを用いての研究となりました。(ちなみに、本酵母は、1969年に私のラボで世界で初めて発見されたメタノール資化性酵母です。)
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局