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PubMedID 22049402 Journal Am J Physiol Renal Physiol, 2012 Feb;302(3);F380-9,
Title Doxorubicin-induced glomerulosclerosis with proteinuria in GFP-GABARAP transgenic mice.
Author Takagi-Akiba M, Asanuma K, ..., Ueno T, Tomino Y
順天堂大学医学部  生化学第一講座    上野 隆     2012/02/05

GFP-GABARAPトランスジェニックマウスの腎症について
 American Journal of Physiology Renal Physiologyの2月号に掲載された私たちの研究について報告いたします。
 水島昇先生が作製されたGFP-LC3トランスジェニックマウスは、今や世界中の至る所で個体・組織レベルのオートファジー研究に貢献しています。LC3が普遍的なオートファゴソーム膜タンパクであるのに対し、GABARAP、 GABARAPL、GATE-16という他のAtg8ホモログについては、組織特異的な役割や、マイトファジーに関与する可能性が取り沙汰されていますが、正直なところいま一つハッキリしないのが現状です。私たちの元同僚で現在国立感染症研究所所属の谷田以誠先生はその問題にアプローチすべく、順天堂大学疾患モデル研究室の多田昇弘先生と共同でGFP-GABARAPとGFP-GATE-16を発現するトランスジェニックマウスを作製しました(以下、それぞれGFP-GABARAP-Tg、GATE-16-Tg)。このうちGFP-GABRAP-Tgについては、海馬の神経細胞と腎臓の足場細胞(podocyte)に多く発現していることが分り、足場細胞オートファジーとの関係を詳細に調べたのが今回の論文の内容です。
 GFP-GABARAPは腎臓糸球体では確かに足場細胞に多く発現していますが、GFP抗体では検出されるのに、内在性GABARAPを認識する抗体で検出するのが難しいことから、発現レベルは内在性のGABARAPよりもかなり少ないと推定されました。また、免疫電顕での観察では膜に結合しているという証拠は得られず、糸球体の細胞分画でも10万×gの上清に大部分回収されることから、ほとんどがI型として存在することが示唆されました。さらにマウスを絶食させてもこのパターンは変化しませんでした。結局GFP-GABARAPは足場細胞のオートファジーに積極的な役割は持っていないように見え、幕引きとなりそうでした。
 ところが、このトランスジェニックマウスでは30週令を過ぎるころから自然発症的に糸球体硬化の兆候を認めました。糸球体硬化の多くは足場細胞の機能不全に起因とすることから、足場細胞を標的とする薬剤性腎症モデルでさらに解析を行いました。ドキソルビシン(=アドリアマイシン)投与による腎症を誘発したところ、GFP-GABARAP-Tgは野生型マウスよりも高いタンパク尿を記録し、糸球体のろ過機能が強く障害されていることが解りました。なぜこのようなことが起こるのか?いろいろ検討したところ、ドキソルビシン投与後足場細胞に増えたp62がGFP-GABARAP (-I)と複合体形成して、細胞質に凝集体として留まることを見出しました。つまり、オートファジーに関与せずに細胞質に存在するGFP-GABARAPがp62と複合体形成して安定化し、unfolded protein responseを起こした結果ではないかと推測される訳です。
 マウスを使う腎症モデルには大きなハードルが有ります。B6の系統は薬剤やタンパク負荷による腎症を起こさず、非感受性であることが確立されています。BALB/cは感受性であることが知られ、私たちもGABARAP-TgをBALB/cに10世代以上戻し交配を続けてようやく腎症モデルに使えるようになりました。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局