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PubMedID 22308378 Journal Proc Natl Acad Sci U S A, 2012 Jan 30; [Epub ahead of print]
Title Mitochondrial ubiquitin ligase MITOL blocks S-nitrosylated MAP1B-light chain 1-mediated mitochondrial dysfunction and neuronal cell death.
Author Yonashiro R, Kimijima Y, ..., Inatome R, Yanagi S
東京薬科大学生命科学部  分子生化学研究室    柳 茂     2012/02/09

ミトコンドリアユビキチンリガーゼMITOLによる神経細胞死防御機構
最近受理された私たちの論文を紹介します。

私たちはミトコンドリア外膜に局在する新規膜型ユビキチンリガーゼMITOL(別名MARCH5)の役割について解析を行っています。MITOLをノックダウンすると微小管が安定化することに気づいたので、MITOLの基質の中に微小管の安定化に関与するタンパク質があると考え、Yeast two-hybrid法にて探索を行った結果、Microtubule-associated protein 1B-light chain 1(MAP1B-LC1)が同定されました。MAP1B-LC1の主な役割は微小管の安定化ですが、ミトコンドリアの動きを抑制する役割やミトコンドリア凝集を引き起こすことが報告されています。私たちはMITOLがMAP1B-LC1と会合して分解を促進すること、MITOLをノックダウンするとMAP1B-LC1がミトコンドリアに蓄積して、ミトコンドリア機能障害を引き起こすことを明らかにしました。

次にMITOLによるMAP1B-LC1のユビキチン化シグナルについてS-ニトロ化に着目しました。MAP1B-LC1は一酸化窒素(NO)によりS-ニトロ化されることによって活性型になり、細胞質から微小管へ移行することが報告されていました。S-ニトロ化されることにより立体構造が変化すると考えられています。興味深いことに、MITOLはS-ニトロ化されたMAP1B-LC1を特異的に認識してユビキチン化することがわかりました。S-ニトロ化によってMAP1B-LC1のユビキチン部位が露出されたと考えています。このことはMAP1B-LC1のS-ニトロ化は活性化シグナルだけではなくてユビキチン化シグナルとしても機能することを意味しています。

この現象の生理的意義について議論したいと思います。MAP1B-LC1はNOによりS-ニトロ化されると速やかに微小管に移行し、ダイニンなどのモータータンパク質を抑制してミトコンドリアや小胞輸送を一時的に停止していると考えられます。しかしながら長期にわたって輸送が止まってしまうと細胞は死のシグナルスイッチを押してしまうので、それを回避するためにミトコンドリアはMITOLを介して活性型のMAP1B-LC1を掃除しているのではないかと推測しています。ミトコンドリアは微小管の品質管理を行うために微小管に沿って動き回っているのかもしれません。もちろん今回の論文では示唆的ではありますが、証拠は不十分であり推測の域を出ません。

今回の論文ではMITOLの機能低下による神経細胞死に注目しました。神経細胞において過剰なNOで刺激するとMITOL自身がS-ニトロ化されて酵素活性が消失することがわかりました。それによってMAP1B-LC1がミトコンドリアに蓄積し、ミトコンドリア機能不全を介して神経細胞死を引き起こすことを示しました。これまでアルツハイマー病やパーキンソン病など多くの神経変性疾患の病態において、酸化ストレスによるミトコンドリア機能不全が原因の一つとされていましたが、そのメカニズムはよくわかっていませんでした。私たちの研究成果は、神経細胞死を防ぐミトコンドリアの新しい役割を示すと共に、アルツハイマー病やパーキンソン病など、酸化ストレスによって引き起こされる神経疾患の理解に新たな視点を提供するものと考えています。

   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局