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PubMedID 24011591 Journal Mol Cell, 2013 Sep 12;51(5);618-31,
Title Phosphorylation of p62 Activates the Keap1-Nrf2 Pathway during Selective Autophagy.
Author
東京都医学総合研究所 蛋白質リサイクルPT  小松研    一村義信     2013/09/25

p62のリン酸化による選択的オートファジーとKeap1-Nrf2システムの連動
私たちが最近発表した論文を紹介させて頂きます(本研究は、東北大学大学院医学系研究科 医化学分野の山本雅之先生のグループとの共同研究です)。
 オートファジーは、タンパク質凝集体、異常・過剰細胞小器官さらには細胞内に侵入した細菌を特異的に認識し、分解することで細胞恒常性維持に貢献する。この選択的オートファジーにおいて、p62タンパク質はオートファゴソーム膜局在タンパク質LC3およびユビキチンと相互作用することから、ユビキチンシグナルを介して変性タンパク質凝集体、脱分極したミトコンドリア、細菌をオートファゴソームへ導くアダプタータンパク質であると想定されている。
 Keap-Nrf2システムは酸化ストレスに応答した転写因子Nrf2の活性制御機構である。Cullin3型ユビキチンリガーゼアダプタータンパク質Keap1はNrf2のユビキチン化を促し、プロテアソームでの分解を促進する。一方、細胞がストレスに暴露されると、Keap1がそのシグナルを感知してNrf2との結合が解離されるため、Nrf2のユビキチン化が抑制される。その結果、安定化したNrf2は核内へ移行し、小Maf群因子とともにストレス防御酵素群の遺伝子発現を誘導する。
 私たちの研究室では、オートファジーが停滞またはp62の遺伝子発現が上昇しp62タンパク質が細胞内に蓄積した場合、p62がKeap1のNrf2結合部位へ競合的に結合し、Nrf2のユビキチン化を阻害することを報告した(Nat. Cell Biol., 12, 213-223, 2010)。また、Johansenらのグループはp62の遺伝子発現がNrf2により正に制御されていること報告し、p62によるNrf2活性化のポジティブフィードバックループが示唆された(J. Biol. Chem., 285, 22576-91, 2010)。しかし、p62によるNrf2活性化制御の病態生理的役割も選択的オートファジーとの関連も不明のままであった。
 今回、構造解析および細胞生物学的解析からp62の351番目のセリン残基がリン酸化されるとKeap1との結合親和性が著しく増大し、安定化したNrf2が一連の生体防御遺伝子の発現を上昇させることを見出した。このリン酸化は選択的オートファジー誘導時、つまりp62がタンパク質凝集体や変性ミトコンドリアに局在した時に観察された。このことは、選択的オートファジーとKeap1-Nrf2システムが連動していることを意味する。さらに、マウスのオートファジー欠損肝腫瘍やヒト肝細胞がんではリン酸化p62が異常蓄積しており恒常的にNrf2が活性化されていた。このNrf2の活性化は肝がん細胞の微小環境下での生存を可能にした。つまり、肝細胞がんはリン酸化p62によるNrf2の活性化機構を自身の増殖に利用していることが判明した。
我々はマウス遺伝学的解析からp62によるNrf2の異常な活性化がオートファジー欠損肝臓の病態の主因であることを明らかにしてきた(Cell, 131, 1149-1163, 2007, Nat. Cell Biol., 12, 213-223, 2010)。しかし、これはヒトの病態ではあり得ない完全オートファジー阻害下での病態解析であり、p62の生理作用を反映しているとは言い難かった。今回、生理的状況下でのp62の局在解析と私たちの研究室で展開してきた遺伝学的解析を基に仮説を立て、オートファジーに関連したp62の生理機能、すなわちオートファジーの選択基質を足場にしたp62によるNrf2活性化機構を明らかにすることができた。
 他方、ごく最近、ベイラー医科大学のTony Eissaらとの共同研究により、マクロファージにおいてAtg7を欠損させるとp62の蓄積を介してNrf2の標的遺伝子であるスカベンジャーレセプターMARCOやMSR1の遺伝子発現が上昇すること、その結果、Atg7欠損マクロファージでは結核菌の取り込みが著しく増加することを報告した(Immunity, 39, 537-547, 2013)。しかし、オートファジー欠損により殺菌能力が阻害されている環境で菌の取り込みを促進させるというこの経路の生理機能は全く不明である。初期感染では私たちが報告した通りマクロファージでもリン酸化p62によるNrf2活性化が第一に起こるのかもしれない。Eissaらのモデルに従うと初期にNrf2が活性化されるとスカベンジャーレセプターの遺伝子発現が上昇、結核菌の取り込みが増加する。この時、Nrf2がペントースリン酸経路に関わる酵素等の遺伝子発現を上昇させること(がん細胞ではNrf2の活性化はペントースリン酸経路に関わる酵素等の遺伝子発現を誘導することが知られている)によりNADPH産生を促し、食胞膜上のNADPHオキシダーゼによる殺菌を強めるようなことがあるのかもしれない。今後、オートファジー欠損モデルを利用した新しい機構の発見が期待される。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局