PubMedID |
24784582 |
Journal |
Nature, 2014 Apr 30; [Epub ahead of print] |
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Title |
Ubiquitin is phosphorylated by PINK1 to activate parkin. |
Author |
Koyano F, Okatsu K, ..., Tanaka K, Matsuda N |
東京都医学総合研究所 蛋白質リサイクルプロジェクト 松田憲之 2014/05/04
パーキンソン病の発症を抑制するリン酸化ユビキチン
先週、Nature に発表されたわれわれの仕事を紹介させていただきます。
本研究では、「リン酸化されたユビキチンがParkinの活性化因子であり、遺伝性パーキンソン病の発症を抑える為に働く分子である」ことを明らかにしました。
私のボスである東京都医学総合研究所の田中啓二所長、それから共同研究者である都医学研の佐伯泰副参事研究員、徳島大学・藤井節郎記念医科学センターの小迫英尊教授、名古屋大学の田村康准教授、静岡大学の木村洋子教授、産業技術総合研究所の広川貴次チームリーダー、JST-CREST及び京都産業大学の遠藤斗志也教授、カナダ・マギル大学(McGill University)のEdward Fon博士、Jean-François Trempe博士との共著論文です。
PINK1 と Parkin は共に遺伝性劣性パーキンソン病の原因遺伝子産物であり、普段はパーキンソン病の発症を抑えるべく機能しています(Kitada et al., Nature 1998; Valente et al., Science 2004)。PINK1 は Ser/Thr kinase、Parkinはユビキチン連結酵素です (Shimura et al., Nat Genet. 2000)。2008年に NIH の Richard Youle 博士らが Parkin と異常ミトコンドリアを結びつける先駆的な論文を報告し(Narendra et al., JCB, 2008)、2010年に我々や国内外の複数の研究グループが「PINK1と Parkinが協調して異常ミトコンドリアを認識・ユビキチン化して、最終的に細胞内からの除去や核近傍への隔離に導いている」ことを報告しました(Matsuda et al., JCB 2010; Narendra et al., Plos Biol. 2010; Okatsu et al., Genes Cells 2010、など)。
さて、PINK1はSer/Thr kinaseなので、我々は「何がPINK1の本質的な(本当の)基質なのか」をメインテーマに据えて研究を行って来ました。順天堂の柴博士・服部博士、Dundee 大の Miratul Muqit 博士、そして我々の研究グループが明らかにしたように、Parkin の Ser65 は PINK1 によってリン酸化されるので、PINK1 の生体内基質の一つは Parkin だと思われます(Shiba-Fukushima et al., Sci Rep. 2012; Kondapalli et al., Open Biol. 2012; Iguchi et al., JBC 2013)。しかしながら、Parkin Ser65 のリン酸化模倣変異体が依然として PINK1 要求性を示すことなど(Iguchi et al., JBC 2013)、Parkin のリン酸化だけで PINK1 機能の全てを説明するのは困難であり、Parkin 以外の別な PINK1 基質の存在が示唆されていました。
本研究で明らかにしたPINK1とParkinの両者を結びつけるPINK1基質 -「未同定であった PINK1-Parkin 間のミッシングリンク」- の実体は、吃驚すべきことにユビキチンでした。
我々は in vitro, in cell の実験から、「細胞内でミトコンドリアの品質が低下すると、PINK1 がユビキチンの Ser65 をリン酸化して、その結果生じる‘リン酸化ユビキチン’が Parkin を活性化して遺伝性パーキンソン病の発症を抑えている」ことや、「遺伝性パーキンソン病患者由来の変異PINK1はユビキチンをリン酸化できずに、Parkin を活性化することができない」ことを、世界で初めて明らかにしました。細胞の中でミトコンドリア異常という情報を伝達していたのは、リン酸化ユビキチンだったことになります。
なお、(論文を投稿した日付は我々が断然最初ですが)NIH の Richard Youle ラボや、Dundee 大の Miratul Muqitラボからも非常に関連したリン酸化ユビキチンに関する論文が報告されています(Kane et al., JCB 2014; Kazlauskaite et al., Biochem J. 2014)。結論の大枠は大体一緒ですが、細部には違いもあるので、ご関心のある方は読み比べていただければ幸いです。経験がない程の激しい競争でしたが、なんとか Nature に論文を出せた時には本当にホッとしました。ちなみに、Richard Youle ラボは competition の間も非常にフェアであったことは申し添えます。
言うまでもなく、ユビキチンに関しては今までに膨大な量の論文が報告されていますが、修飾因子であるユビキチン自身がリン酸化という修飾を受け、かつそれが遺伝性パーキンソン病の発症を防ぐのに重要な役割を担っているという知見は、誰も予想しなかった全く新しい展開です。また、ユビキチンはボスの田中啓二所長のライフワークタンパク質なのですが、PINK1の解析を続けていたらユビキチンに繋がってくるというのは本当に奇遇奇縁で、研究の不思議を感じました。