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PubMedID 25287303 Journal J Cell Biol, 2014 Oct 13;207(1);91-105,
Title Hrr25 triggers selective autophagy-related pathways by phosphorylating receptor proteins.
Author Tanaka C, Tan LJ, ..., Ohsumi Y, Nakatogawa H
東京工業大学 生命理工学研究科  中戸川研究室    中戸川 仁     2014/10/17

出芽酵母における Hrr25 による選択的オートファジーの制御機構
  最近、私たちが発表しました論文を紹介させていただきます。
  現在、出芽酵母では選択的オートファジーのレセプターとして、Atg19, Atg34, Atg32, Atg36の4つが知られており、それぞれ、Cvt経路、飢餓時のAms1(α−マンノシダーゼ)の液胞輸送、マイトファジー、ペキソファジーを媒介しています。またこれらレセプターは全て、Atg11をアダプターとして、標的上にコアAtgタンパク質群をリクルートすることで、各選択的オートファジー経路を誘導することが明らかとなっていました。さらに、神吉先生のグループにより、マイトファジー誘導条件では、カゼインキナーゼ2がAtg32をリン酸化し、Atg32-Atg11間の相互作用を強化することで、マイトファジーが誘導されることが報告されましたが、他のレセプター依存性選択的オートファジー経路の制御機構については明らかとなっていませんでした。
  私たちのグループの大学院生の田中力君が、出芽酵母のタンパク質キナーゼ相互作用ネットワーク解析の結果の中に、Hrr25というカゼインキナーゼ1のホモログがAtg19と相互作用するというデータを見つけ、Hrr25とCvt経路との関係を調べることにしました。種々の解析の結果、マイトファジーの例と同様に、Hrr25がAtg19をリン酸化するとAtg11との結合が上昇し、Cvt経路が昂進するという結論に至りました。これまで、オートファジーと比して、Cvt経路は恒常的な経路である、と記述されることがしばしばありましたが、実際には、(おそらく酵母のオートファジー研究者のほとんどは知っていたと思うのですが)富栄養培地でも増殖期が後期に進むにつれてCvt経路は昂進します。Hrr25によるAtg19のリン酸化も増殖期後期で上昇し、Cvt経路の昂進に寄与することも明らかとなりました。
  さらに、他の選択的オートファジー経路へのHrr25の関与を調べると、Hrr25はペキソファジーにも重要であることがわかりました。ペキソファジーのレセプターはペキソファジー誘導条件で何らかのキナーゼによりリン酸化されることが知られていました。調べていくと、推測通り、Hrr25はレセプターのAtg36をリン酸化し、Atg36-Atg11間の相互作用を強化することで、ペキソファジーの誘導に重要な役割を果たすことが明らかになりました。
  また、本論文とほぼ同時にFEBS Letter誌に発表した別の論文になりますが、Hrr25はAtg34もリン酸化し、Atg11との相互作用を促進することで、Ams1の飢餓時の液胞輸送の誘導にも関与していることが明らかとなりました。すなわち、Hrr25は既知の4つのレセプターのうち3つをリン酸化し、それぞれが媒介する選択的オートファジー経路を制御していることになります。Cvt経路、Ams1の液胞輸送、ペキソファジーは、どれも増殖期後期や窒素飢餓等、類似した条件で誘導されます。Hrr25によるAtg19, Atg34, Atg36のリン酸化は共通のシグナル/メカニズムで活性化されると考え、現在その解明に取り組んでいます。
  マイトファジーの例と今回の研究成果を合わせると、出芽酵母の4つのレセプター依存性選択的オートファジーは、全て、レセプター分子内のAtg11相互作用領域のリン酸化により、レセプター−Atg11間相互作用が上昇する、という同一のメカニズムにより制御されることが明らかとなったことになります。標的認識機構の基本骨格だけでなく、制御機構までもが共通であることはとても興味深いと思います。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局