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PubMedID 26442587 Journal J Biol Chem, 2015 Oct 6; [Epub ahead of print]
Title The Thermotolerant Yeast Kluyveromyces marxianus Is a Useful Organism for Structural and Biochemical Studies of Autophagy.
Author Yamamoto H, Shima T, ..., Akada R, Ohsumi Y
東京工業大学 フロンティア研究機構  大隅研究室    山本 林     2015/10/14

オートファジー研究での耐熱性酵母K. marxianusの利用
 私たちが最近発表した論文について紹介させて頂きます。この論文では、耐熱性酵母Kluyveromyces marxianus (Km) の必須Atgタンパク質を同定し、出芽酵母S. cerevisiae (Sc) のAtgタンパク質と一次配列、熱安定性、可溶性の比較などを行っています。

 現在までに出芽酵母S. cerevisiaeを用いた解析で多くのAtgタンパク質が同定され、その機能解析が進められてきました。こうしたオートファジー研究の進展には、構造解析やin vitro再構成系などのリコンビナントタンパク質を用いた生化学的解析も大きな役割を果たしてきました。しかし、ScAtgタンパク質の中にはリコンビナントタンパク質の安定性が低く、構造解析やin vitro解析を行うのが難しい因子も残っています。そこで我々は、50°C近くで生育可能な耐熱性酵母K. marxianusに着目し、KmAtgタンパク質を新たな解析ツールとして用いることを試みました。
 まず、耐熱性酵母K. marxianusのすべてのORFについてS. cerevisiaeのORFと配列比較を行ったところ、Kmタンパク質の方がScタンパク質よりも全体的に一次配列で短い傾向にあることが分かりました。特にAtgタンパク質の比較ではその傾向が顕著で、KmAtgタンパク質ではScAtgタンパク質が持つ余分な配列?が除かれていることが示唆されました。また、二次構造予測でのunfoldabilityを示すFoldIndexスコアを比較したところ、Kmタンパク質の方がより高い安定性を示すという結果が得られました。
 次に、K. marxianusでのオートファジー解析法(GFP-KmAtg8のprocessing assay やKmALP assayなど)の確立を行い、配列相同性から見出されたKmAtgタンパク質が確かにK. marxianusでのオートファジーに関与することを確認しました。K. marxianusとS. cerevisiaeの違いとしてKmAtg11の非選択的オートファジーへの寄与が非常に大きいことが挙げられ、K. marxianusを用いてさらに解析を進めることで、オートファゴソーム形成の初期過程において新たな知見が得られるものと期待されます。また、K. marxianusとS. cerevisiaeの一部のAtgタンパク質について、リコンビナントタンパク質の熱安定性や可溶性をin vitroで比較したところ、KmAtgタンパク質の方がより安定であることが実験的に示されました。このような性質から、KmAtgタンパク質が構造解析やin vitro解析に特に有用であると考えられます。すでにKmAtgタンパク質を用いた構造解析で多くの成果が得られており、KmAtg5 (Yamaguchi et al., Structure, 2012)、KmAtg18ホモログKmHsv2 (Watanabe et al., J. Biol. Chem., 2012)、KmAtg7-KmAtg10 (Yamaguchi et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 2012)、KmAtg1-KmAtg13 (Fujioka et al., Nat. Struct. Mol. Biol.,2014)(すべて微生物化学研究所・野田先生との共同研究)、などを報告しています。Atgタンパク質の中には構造や機能が未知の因子が残っており、KmAtgタンパク質の利用がこれらの因子の機能解明に少しでも役立つことを期待しています。また、オートファジー関連タンパク質に限らず、他の多くのKmタンパク質も短い一次配列と安定な二次構造を持つことが予測されており、他分野での研究においてもK. marxianusは有用であると考えられます。耐熱性酵母K. marxianusのゲノム配列は、NITE (National Institute of Technology and Evaluation) (Lertwattanasakul et al. Biotechnol. Biofuels., 2015) から公開されています。
   
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