Proteolysis Forum
トップ

PubMedID 27320913 Journal Cell Rep, 2016 Jun 15; [Epub ahead of print]
Title Structural Basis for Receptor-Mediated Selective Autophagy of Aminopeptidase I Aggregates.
Author Yamasaki A, Watanabe Y, ..., Inagaki F, Noda NN
公益財団法人微生物化学研究会 微生物化学研究所  分子構造解析部    山崎 章徳     2016/06/22

選択的オートファジー受容体はカーゴの大きさを制御する
 最近発表しました私たちの論文について報告させていただきます。この研究は東京工業大学 中戸川先生、大隅先生、東京大学 鈴木先生らのグループと共同で行ったものです。

 出芽酵母において液胞酵素であるApe1は、富栄養下においてもCvt経路と呼ばれる選択的オートファジーによりCvt小胞という小さな (~150 nm) オートファゴソーム様の小胞に積み込まれて液胞へと輸送されます。Ape1は翻訳後速やかに12量体化した後、12量体同士がN末端に存在するプロペプチドを介して結合し、巨大なApe1凝集体を形成します。そしてApe1の受容体であるAtg19がコイルドコイル領域を介してApe1のプロペプチドを認識することにより、Ape1凝集体はCvt小胞に積み込まれます。しかしながらこれらの原子レベルでの分子機構については不明でした。

 私たちはX線結晶構造解析を用い、Ape1の全体構造、Ape1プロペプチドによる凝集機構、Atg19によるApe1プロペプチド認識機構をそれぞれ明らかにし、次のような構造的情報を得ました。

1) Ape1は正四面体様の12量体を形成しプロペプチドが外側を向いた構造を取る。
2) Ape1プロペプチドによる凝集は、1本のプロペプチドに対し2本のプロペプチドが逆平行に配置される3量体を形成することで引き起こされる。
3) Atg19コイルドコイルによるApe1プロペプチドの認識は、1本のApe1プロペプチドに対し2本のAtg19コイルドコイルが逆平行に配置される、プロペプチド凝集と非常に酷似した3量体形成を介して行われる。

 プロペプチド凝集とAtg19認識の構造的類似性から、Atg19はApe1に結合することでApe1の凝集を負に制御することが予想されました。溶液中の粒子径を計測できる動的光散乱法から、Ape1単独の粒子径に比べAtg19コイルドコイルを同時に添加した粒子径は顕著に小さく計測されることや、GST-pull downによる結合実験でApe1プロペプチド同士の結合がAtg19コイルドコイルの添加で弱くなることが観察され、Atg19がApe1凝集体のサイズを負に制御していることが示唆されました。このAtg19によるApe1凝集体のサイズ制御が生体内でどのような意味を持つのかを調べるため、Ape1のC末端にAtg19のAtg8/Atg11結合部位を含んだ領域を融合したキメラ蛋白質 (prApe1-Atg19ARR) を設計し、ape1 atg19両欠損株に導入しました。するとAtg19コイルドコイルを共発現させた時のみ、prApe1-Atg19ARRのCvt経路による液胞輸送が観察されました。この結果は、Atg19がコイルドコイルを使ってApe1の過度な凝集を抑え、Cvt小胞への積み込みに適したサイズに調節していることを示しています。

 本研究から、選択的オートファジー受容体が、従来考えられていたカーゴの認識やオートファゴソーム膜への繋留機能のみならず、カーゴの過度の凝集を阻害しオートファゴソームに取り込める大きさに制御しているという新たな機構を見出しました。今後の展望として、この選択的オートファジー受容体による積極的なカーゴのサイズ制御機構が、他の選択的オートファジー経路にも存在しているのかを調べられたらと考えています。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局