PubMedID |
28483912 |
Journal |
Mol Cell Biol, 2017 May 08; [Epub ahead of print] |
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Title |
An in vitro TORC1 kinase assay that recapitulates the Gtr-independent glutamine-responsive TORC1 activation mechanism on yeast vacuoles. |
Author |
Tanigawa M, Maeda T |
東京大学・分子細胞生物学研究所 膜蛋白質解析研究分野 前田達哉 2017/05/10
アミノ酸応答性in vitro TORC1キナーゼアッセイ
最近受理されました私たちの論文を紹介させてください。
TORC1(哺乳類ではmTORC1)キナーゼ複合体は細胞内のアミノ酸、特にロイシンに応答して活性化されると以前から主張されていましたが、そのことが証明(?)されたのは実はほんの昨年のことです(TORC1上流の制御因子に対する結合/阻害タンパク質であるSestrin2とCASTORが、それぞれロイシンとアルギニンに対するセンサーと考えられることが示された)。アミノ酸は細胞内で速やかに代謝されて別のアミノ酸やその他の代謝物に変換されるため、生細胞を用いたこれまでのin vivoのアッセイ系では、TORC1活性化に際して直接に検知されているのがアミノ酸であるかどうかを評価することは原理的にできません。一方、免疫沈降法などで精製したTORC1標品を用いたTORC1キナーゼアッセイでは、アミノ酸に応答したTORC1活性化をin vitroで再現することにこれまで誰も成功していませんでした。
私たちは精製TORC1を用いるという発想を捨て、透過性化した酵母細胞(いわゆるセミインタクト細胞)をそのままTORC1キナーゼ標品として用いるという“乱暴な”方法で、アミノ酸依存的TORC1活性化をin vitroで再現することに初めて成功しました。さらに、セミインタクト細胞だけでなく、密度勾配遠心法で精製した液胞(哺乳類のリソソームに相当)をキナーゼ標品としても基本的に同じ結果を得ています。
この系で再現することのできたアミノ酸応答性TORC1活性化機構について次の点を明らかにしました。
1.必要な因子は全て液胞膜に局在している。
2.生理的な濃度ではグルタミンのみがTORC1活性化能を示す。
3.L-グルタミンのみが活性化能を示し、D-グルタミンは示さない。
4.液胞膜を隔てたプロトン濃度勾配も液胞膜のintegrityも不要。
5.この系はGtr非依存性TORC1活性化機構を反映している(後述)。
6.FYVEドメインを有するタンパク質Pib2が必須(後述)。
7.Complex IでもIIでもない、新規なVps34-Vps15 PI3キナーゼ複合体が必須(おそらく液胞膜PI(3)P合成を介してPib2を液胞膜上にリクルートするため)。
8.Pib2とTORC1は液胞膜上でグルタミン依存的に相互作用する。
これまで、アミノ酸に応答したTORC1(mTORC1)の活性化に関しては、液胞膜(哺乳類ではリソソーム膜)上にアンカーされている低分子量Gタンパク質ヘテロ2量体であるGtr複合体(哺乳類ではRag複合体)がアミノ酸依存的に活性化され、その複合体とTORC1との結合が昂進することが主要な制御点であると広く信じられ、Gtr/Rag複合体活性化の分子機構が詳細に明らかにされてきました。ところが最近になって、Gtr/Rag複合体を欠損した細胞においても、グルタミンに応答したTORC1活性化は失われていないことが酵母と哺乳類細胞で報告されました(J Biol Chem 289: 25010-20, 2014、Science 347: 194-8, 2015)。私たちの系は、酵母におけるグルタミン応答性・Gtr非依存性TORC1活性化機構を反映していると考えられます。また、グルタミン応答性TORC1活性化の分子基盤にPib2-TORC1相互作用の昂進というステップが存在することを提唱したいと思います。
代謝中間体としてのグルタミンの重要性を考慮するならば、細胞内のグルタミンレベルをモニターすることは、生物種によって異なりうる“必須”アミノ酸の検知よりも進化上旧く、かつ普遍的な要請であると考えられます。今後はこの系を用いてグルタミンセンサーを同定するともに、グルタミン検知からTORC1活性化に至る過程を明らかにしていきたいと考えています。