PubMedID |
28495679 |
Journal |
EMBO J, 2017 May 11; [Epub ahead of print] |
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Title |
Autophagosome formation is initiated at phosphatidylinositol synthase-enriched ER subdomains. |
Author |
Nishimura T, Tamura N, ..., Yamamoto H, Mizushima N |
東大医 (現 UCL MRC-LMCB) 水島研 西村 多喜 2017/05/14
オートファゴソームはPI合成酵素が濃縮されている部位から形成される
先日受理されました、私たちの論文をご紹介させて頂きます。
ATG分子によるオートファゴソームの形成機構は、酵母や動物細胞を用いた解析から、その全貌が明らかになりつつあります。一方で、オートファゴソーム形成の初期過程に関しては、まだ未解明な点が数多く残されており、オートファジー分野におけるホットトピックの一つです。これまでの形態学的な解析から、動物細胞では、オートファゴソーム初期構造体が小胞体近傍で出現し、小胞体膜と近接した状態で伸張していくことが明らかになっています。しかしながら、初期過程で機能するATG分子と小胞体の関係性や、その小胞体のオートファゴソーム形成における役割は、まだ良く分かっていません。
本研究で私たちは、まず、オートファゴソーム形成の初期過程に機能するULK複合体が局在する膜構造体を、生化学的手法で調べることにしました。野生型細胞では、オートファジーfluxが正常であるため、steady stateで存在する初期構造体の量が少なく、生化学的な解析が非常に困難でした。そこで本研究では、初期構造体が蓄積したATG分子欠損細胞(ATG14 KO, ATG3 KO)を用いることにしました。その結果、phosphatidylinositol 3-phosphate (PI3P) が形成される前のinitiation stageでは、ULK複合体は小胞体膜に局在し、PI3P形成後の隔離膜が形成された段階では、ULK複合体はATG9A陽性の隔離膜構造体に局在することが分かりました。
興味深いことに、PI3Pが形成される以前のULK複合体は小胞体に局在するにも関わらず、小胞体特有の網目状構造ではなく、ドット状の局在を示します。そこで次に私たちは、ULK複合体は小胞体膜上に一様に存在するのではなく、特定のドメインに限局するのではないかと仮説を立て、小胞体上のULK複合体と共局在する分子を探索しました。その結果、phosphatidylinositol synthase (PIS)など、一部のリン脂質de novo 合成に関与する酵素群が、ULK複合体と共局在することを見出しました。PISはオートファゴソーム形成に必須なPI3Pの前駆体であるphosphatidylinositol (PI) を合成する酵素で、最近、小胞体膜上でドット状の局在を示し、特殊なドメインを形成しているという報告がありました。実際、SIM顕微鏡による超高解像度レベルの解析やDeltavisionを用いたlive imaging解析から、ULK複合体のドット状構造体が、PIS陽性構造体上から高頻度で出現する様子を確認することが出来ました。
最後に、オートファゴソーム形成における小胞体の役割を調べました。小胞体上のPISドメインではPISの産物であるPIが豊富に存在することが想定されることから、PI分解による影響を調べました。バクテリア由来のPI分解酵素PI-PLCをPISドメインに発現させて、小胞体膜上のPIを分解させたころ、オートファゴソーム形成が強く阻害されることが分かりました。以上の結果から、小胞体膜上のPIがオートファゴソーム形成に重要なことが示唆されました。恐らく、小胞体はオートファゴソーム形成過程に必要なPIやPI3Pなどの脂質を初期構造体に供給する重要な役割を果たしているのではないかと推察されます。今後はこの可能性を、超高解像度顕微鏡を用いたimaging解析やin vitro再構成系によって、詳細に検証していく必要があるものと思われます。
私は現在イギリスに留学中で、みなさまと直接お話しする機会があまりないので、何かご不明な点がありましたら、このオートファジーフォーラムか、メール等でご連絡頂ければと思います。様々なご意見をお待ちしております。
最後になりますが、本研究では、水島さんは言うまでもなく、講師の山本林さんと博士課程学生の田村律人君にも大変お世話になりました。この場を借りて、お礼を申し上げます。