PubMedID |
17632063 |
Journal |
Cell, 2007 Jul 13;130(1);165-78, |
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Title |
Atg8, a ubiquitin-like protein required for autophagosome formation, mediates membrane tethering and hemifusion. |
Author |
Nakatogawa H, Ichimura Y, Ohsumi Y |
基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門 大隅良典研 中戸川 仁 2007/08/01
オートファゴソーム形成におけるAtg8の機能・・・は?
この論文では、酵母でのオートファゴソーム形成に必須のユビキチン様蛋白質であるAtg8(動物細胞にはLC3等、4つのホモログが見つかっています)の機能について言及しています。Atg8とそのホモログたちは、ユビキチン様の結合反応で、蛋白質ではなく、リン脂質であるホスファチジルエタノールアミン(PE)の親水性頭部のアミノ基と結合するというユニークさで脚光を浴び、隔離膜およびオートファゴソームに局在することから、膜伸張に直接関与する鍵分子と考えられてきましたが、その機能については謎に包まれたまま、オートファジーのマーカー蛋白質としての名ばかり売れていました。
この論文では、in vitroでのAtg8とPEとの結合反応再構成系を用いて、Atg8には、PEと結合すると、ホモ多量体を形成し、自身がアンカーされた膜(リポソーム)同士を繋ぎ合わせ、ヘミフュージョン*という特殊な融合状態に導く機能があることを示しています。さらに、このような機能が低下したAtg8変異体が複数、オートファジー欠損変異として同定されたことから、膜の繋ぎ合わせとヘミフュージョンというvitroで見られた現象は、細胞内でのオートファゴソーム形成におけるAtg8の役割を何らかのかたちで反映していることが示唆されました。これらAtg8の変異は vivoでもvitroでもpartial な欠損を示しますが、これらの二重変異株では液胞内にオートファジックボディの蓄積がほとんど見られなくなるので、Atg8による膜の繋ぎ合わせとヘミフュージョンはオートファゴソーム形成に必須の機能であると考えられます。一方、上記のようにpartial な単独変異株では、野生株に比べて明らかに小さなオートファジックボディが蓄積することが明らかとなりました。従って、今回明らかとなったAtg8の機能は、オートファゴソームの大きさを決める段階、すなわち、隔離膜の伸張段階で必要とされる機能であると考えられます**。
この仕事は、酵素活性以外のAtg蛋白質の機能について初めて具体的に言及した点、しかもそれが膜動態に直接関与しうる機能である点が評価されたのだと思います。また、それを担うのがユビキチン様蛋白質自身であるという点も、従来のモディファイアとしての観念を逸脱しており、驚きに値する点であると思います。オートファジーのマーカーとして名を揚げていたのも良かったのかも知れません。
しかしながら、ヘミフュージョンだけでは直接的な膜伸張の駆動にはなりえないので、これがどのようにして膜伸張にかかわるのかを今後具体的に明らかにしていかなければなりません。細胞内では他の因子や特殊な脂質組成の助けを借りてAtg8によるヘミが完全な融合に進行するのかも知れませんし、膜融合とは異なる事象に関与していて、そこではヘミですべきことが全うされるのかも知れません。このような問題は、そもそも細胞内ではAtg8-PEは隔離膜以外に(あるのなら)どのようなものに乗っているのか(膜小胞?何処かのオルガネラ膜?脂肪滴あるいはミセルのようなもの?)、といった問題とも密接に関連しており、このような問題にまずはきちんと答えを出していく必要があるように思います。Atg8-PEが形成される場所や、オートファゴソームの膜の起源といったlong-standing questionsとも絡む可能性のある重要な課題です。
以上、論文だけでは不完全燃焼になっていた思いの丈(?)をこの場を借りて少し書かせていただきました。ついつい長くなってしまいすいません。
ご意見、ご批判、ご質問などありましたら、お寄せ下さい。助かります。
*補足:向かい合う二枚の膜(脂質二重層)のうち、近接したleaflet(outer leaflet)同士のみが融合していて、反対側のleaflet(inner leaflet)は元のまま別々になっている状態。最近では、SNAREやインフルエンザのHAタンパク質等による生体内で起こる膜融合反応に共通の中間体として位置づけられています。
**補足:論文中では議論していませんが、もう一つ面白い特徴として、変異株ではオートファジックボディのサイズは小さいのですが、数はむしろ野生株より多いように見えます。実際にラフに算数すると、サイズは半分(電顕像)、ボリュームは半分(ALP assay)なので、こうなるには数は4倍ということになります。さらにこれに基づけば、野生型と変異体で作り出される膜の総量(総面積)は同じくらいだということになります。あまりにラフな見積もりですし、それぞれの原因がわからないのでだからなんだとは言えませんが、オートファゴソーム形成のメカニズムの本質的なところとも関係しているように思えます。
蛇足:2個のリポソームがヘミフュージョンした様は、まさに数字の「8」ではないですか! これはもはや単なる偶然とは思えません。