PubMedID |
29475974 |
Journal |
Development, 2018 Feb 23;145(4); |
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Title |
Forced lipophagy reveals that lipid droplets are required for early embryonic development in mouse. |
Author |
Tatsumi T, Takayama K, ..., Itakura E, Tsukamoto S |
放射線医学総合研究所 技術安全部 生物研究推進課 塚本 智史 2018/03/02
Forcedリポファジーを用いてマウス卵の脂肪滴の役割を解析
先日掲載されました、私たちのタマゴの論文を紹介させて頂きます(まずイントロが長いです)。
ほ乳動物の卵子の細胞質(卵細胞質)には多かれ少なかれ脂肪滴が蓄えられています。脂肪滴は、マウスやヒトの卵細胞質では比較的少なく、ブタやウシのような大型動物には多量に含まれます(その結果、ブタやウシの卵子は黒ずんでいるように見えます)。実体顕微鏡でも容易に観察できることから、古くからよく知られた構造体(オルガネラ)でしたが、その役割は未だはっきりしていません。脂肪滴が多く含まれるブタやウシでは、どちらかというと脂肪滴は負のイメージが強く(例えば、凍結するためには脂肪滴を取り除く必要があったり、脂肪滴が多すぎてタマゴ内部が見えづらいなど)、反対に、それほど多くないマウスやヒトでは、特にこれと言った弊害はなく、あまり注目されていなかった背景があるのかもしれません。いずれにしましても、私たちはマウス卵細胞質の脂肪滴に着目して、受精後の胚発生における役割を明らかにしたいと考えました。しかし、脂肪滴が機能するためには、多くの遺伝子が関与していることや受精卵で効果的な阻害方法などがないことから、全く別のアプローチが必要だと考えました。
そこで私たちは、オートファジーを利用して脂肪滴を選択的(強制的)に分解する手法の開発に取り組みました。オートファジーアダプターとして有名なp62を脂肪滴の表層上に局在させることで(脂肪滴との相互作用に必要なPATドメインと変異型p62 (p62T352A)さらに蛍光タンパク質mCherryの融合タンパク質を発現させて)、脂肪滴がオートファジーで選択的に分解されないかどうかをまず培養細胞を用いて検討しました。その結果、期待通りに脂肪滴がオートファジー依存的に分解されることが分かりました(私たちはこの系を「Forcedリポファジー」と名付けました)。
次に、活発にオートファジーが起こっている受精直後のマウス初期胚にForcedリポファジーを誘導したところ、細胞質に分散していた脂肪滴が発生とともに集合体となり細胞膜の近傍へ移動することが分かりました。細胞膜の近傍にはリソソームが豊富に存在することから、脂肪滴が積極的に分解されていると考えられます。実際に、細胞内の脂肪含量は正常な受精卵の半分ほどになっていました。このようなForcedリポファジー卵を体外で培養すると、胚盤胞への発生率が低下したことから、卵細胞質にあらかじめ蓄積される脂肪滴は着床するまでの胚発生に少なからず必要である可能性があります。一方で、受精卵の培養液からアミノ酸を抜くと、正常な受精卵では胚盤胞までの発生率が低下するにも関わらず、Forcedリポファジー卵ではその影響は観察されませんでした。受精卵は培養環境に応じて、Forcedリポファジーによって産生された脂肪酸をエネルギー源として利用できるのかもしれないと推測しています。
まとめると、リポファジーを強制的に引き起こすシステムの構築に成功し、マウス初期発生における脂肪滴の役割を明らかにすることができました。同様のシステムを用いて他組織における脂肪滴の役割や、脂肪滴以外への選択的オートファジーへの応用などが期待されます。
さらにForcedリポファジーのシステムや培養環境を改良することで、脂肪滴がほとんどないようなツルツルのタマゴを作製できるかもしれません・・・
本研究は、水島研OBの板倉さん(千葉大学)と塚本(放医研)による初のコラボ実験が結実した論文です!