PubMedID |
29925000 |
Journal |
Cell Rep, 2018 Jun 19;23(12);3579-3590, |
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Title |
The PP2A-like Protein Phosphatase Ppg1 and the Far Complex Cooperatively Counteract CK2-Mediated Phosphorylation of Atg32 to Inhibit Mitophagy. |
Author |
Furukawa K, Fukuda T, ..., Nakatogawa H, Kanki T |
新潟大学大学院医歯学総合研究科・機能制御学分野 神吉研究室 古川健太郎 2018/07/03
Ppg1によるAtg32の脱リン酸化を介したマイトファジーの抑制
先日出版された私たちの論文を紹介させていただきます。
ミトコンドリアを選択的に分解するミトコンドリアオートファジー(以下、マイトファジー)は、ミトコンドリアの恒常性維持に貢献していると考えられています。当研究室では、酵母をマイトファジーのモデル生物として用いて、マイトファジーレセプターAtg32の同定(Kankiら、Dev Cell、2009)を皮切りに、マイトファジーの分子機構の大部分を明らかにしてきました。2013年には、Atg32がカゼインキナーゼ2(以下、CK2)によってリン酸化されることがマイトファジーの引き金となることを発表しました(Kankiら、EMBO Rep、2013)。しかしながら、CK2は常に活性を持った状態で細胞内に大量に存在するにもかかわらず、Atg32のリン酸化はマイトファジー誘導時のみ起こることから、通常条件下ではどのようにリン酸化が抑制されているのかは不明のままでした。
本研究では、Atg32のリン酸化を抑制する因子を探索する方法として、マイトファジーが誘導されると、Atg32がリン酸化依存的にミトコンドリア上にドット状に集積する現象に着目しました。マイトファジーを誘導せずにこのような特徴を示す変異株を探索したところ、PP2A様プロテインホスファターゼPpg1が同定されました。Ppg1を欠損させると、マイトファジー誘導非依存的なAtg32のリン酸化およびアダプタータンパク質Atg11との結合が観察され、その結果としてマイトファジーの亢進が見られました。興味深いことに、Atg32のリン酸化だけではマイトファジーは進行せず、オートファジーのコアとなる部分も同時に活性化されることが重要であることが分かりました。また、Ppg1は、バルクオートファジー、Cvt経路とそのレセプターAtg19、ペキソファジーとそのレセプターAtg36の制御には関与しないことも分かりました。
Ppg1が属するPP2Aファミリーのプロテインホスファターゼは、活性調節因子と結合して機能を発揮することが知られています。しかしながら、Atg32の脱リン酸化にはPpg1は既知の活性調節因子を必要としなかったことから、未知の因子が関与すると推測しました。そこで、Ppg1と結合する因子をプロテオミクス解析によって探索したところ、Far複合体(Far3、7、8、9、10、11の6タンパク質から成る)が同定されました。Far複合体を欠損させると、Ppg1欠損と同様にAtg32の恒常的なリン酸化とマイトファジーの亢進が見られました。
最後に、マイトファジーの抑制にAtg32タンパク質のどの領域が重要なのかを調べました。Atg32のアミノ酸配列151-200番目の領域を欠損させると、Ppg1欠損とほぼ同様の結果となったことから、Ppg1はこの領域を介してAtg32を脱リン酸化していると推測されました。
マイトファジーの誘導条件下において、Ppg1とFar複合体は未解明のシグナルによって不活性化され、Atg32を脱リン酸化することができなくなり、結果的にAtg32はCK2によるリン酸化を受けると推測されます。今後は、このシグナルの正体と詳細な分子機構を明らかにすることでマイトファジーの制御機構の全容解明を目指します。