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PubMedID 30030437 Journal Nat Commun, 2018 Jul 20;9(1);2855,
Title An autophagy assay reveals the ESCRT-III component CHMP2A as a regulator of phagophore closure.
Author Takahashi Y, He H, ..., Abraham T, Wang HG
ペンシルバニア州立大学  Pediatric Molecular Oncology     高橋 良徳     2018/08/10

ESCRTの隔離膜形成閉鎖における役割
皆さま、はじめまして。ペンシルバニア州立大学の高橋です。今回、私たちは新しいAutophagosome Completion Assayを確立し、それを用いてESCRTによる隔離膜の閉鎖の制御について例証した結果を報告したので、その論文について紹介させていただきます。

LC3を指標にした哺乳動物細胞におけるオートファゴソームの観察法は広く用いられていますが、これまで隔離膜とオートファゴソーム膜を簡単に区別できる方法がありませんでした。私たちは、LC3-IIが隔離膜、オートファゴソーム内膜及び外膜に局在するという特性を利用し、HaloTagテクノロジーを応用することによって、隔離膜及び外膜に局在するLC3をオートファゴソーム内に閉じ込められたLC3と区別して検出する手法を確立しました。アッセイの概略ですが、まずはHaloTag-LC3を恒常的に発現している細胞の細胞膜に穴をあけ、HaloTag-LC3-Iを流出させるとともに、細胞質側にある(膜で閉じ込められていない)HaloTag-LC3-IIを蛍光標識のついた膜非透過型のHaloTagリガンド(MIL)で飽和させます(HaloTagとHaloTagリガンドの結合は不可逆的です)。次に、別の蛍光標識のついた膜透過型のリガンド(MPL)を使い、膜内のHaloTag-LC3を染めることにより、隔離膜(MIL+MPL-)、初期オートファゴソーム(MIL+MPL+)と、後期オートファゴソーム・オートライソソーム(MIL-MPL+)を区別するといった非常にシンプルなアッセイです。細胞気質中のLC3-Iが流出しているため、膜に結合したLC3を検出するSN比が高く、イメージの解像度が高いのも特徴かと思います。再現性も非常に高く、条件を確立してしまえばスクリーニングなどにも適用できます。難点をあげるとすれば、細胞にHaloTag-LC3を発現させる必要があること、細胞が剥がれやすいのでかなり慎重に操作する必要があること、そして試薬がやや高額なことです。

本論文では上述したHaloTag-LC3アッセイを用いて、ESCRT-IIIタンパク質の一つであるCHMP2Aを隔離膜の閉鎖を制御する因子の一つとして同定しました。ESCRTの隔離膜閉鎖への関与は長い間仮説として提唱されてきましたが、これまでの研究論文は主にESCRTのオートファゴソームの成熟における役割に関するものでした。実は、私も最初にCHMP2Aノックダウン細胞のアッセイ結果を顕微鏡下で観察したときは、MILだけでなくMPLのシグナルもあがっていたため「ESCRTはオートファゴソームの成熟過程におけるLC3-IIの脱脂質化に重要なのかな」という印象でした。しかし、実際に解析してみると、MIL+MPL-の蓄積が顕著に認められ、さらに電顕では多数の膜の閉じていない隔離膜様の構造物や楕円上のオートファゴソーム様の構造物が認められ、さらにCHMP2Aが隔離膜の閉鎖口あたりに局在することなどから、CHMP2Aは隔離膜の閉鎖を制御しているという結論に至りました。興味深いことに、CHMP2Aノックダウンによりオートファゴソームの外膜と内膜の分離が阻害されてもSTX17TMの膜への局在には影響がなく、まれに隔離膜が完全に閉鎖しないままリソソームと融合したと考えられる構造物が認められました。これらの異常な構造体ではライソソーム膜タンパク質であるLAMP1が外膜だけでなく内膜にも局在しており、ライソソームの内容物がオートファゴソーム膜間スペースに溜まってしまっていることから、二重膜形成における膜の完全分離が、分解能をもったオートリソソームを形成する上でいかに重要かということが推察されました。

論文を投稿した時のレビューアーの反応ですが、そのままメジャーな追加実験なしにすぐに発表されるべきだと強くサポートしてくれる意見とtoo preliminaryでconfusingだというかなり辛辣な意見の2つに割れてしまいました。Peer Review Fileとしてそのうち公開されると思いますが、否定的な意見の主なものとして、「なぜMPLのシグナルが上がっているのか」ということと、「蓄積している隔離膜は、エンドライソソーム経路を阻害したことによるオートファジーの過剰な誘導が結果的に膜閉鎖に影響しているだけにすきないのでは」というものでした。MPLの蓄積については、上述した隔離膜のライソソームとの異常な融合あるいは、蓄積した隔離膜同士が融合することによって生じる構造物によるものではないかという結論へ導けましたが、後者についてはなかなか納得してもらえず、初投稿から2回のMajor Revisionと1回のMinor Revisionを通してアクセプトをもらうまでに1年以上かかってしまいました。ここ1年は旧来の手法を用いての検証実験がメインで、簡単にオートファゴソーム膜の閉鎖を調べるための新アッセイ法を確立したのになぜ、という矛盾とフラストレーションを抱えての日々でしたが、結果として論文がよりよいものに仕上がったので、まぁよかったのかなと思っています。今後はESCRTタンパク質がどのようにして隔離膜へ誘導されていくかについて研究を進めていく予定です。

最後になりますが、HaloTag-LC3アッセイは隔離膜の閉鎖や外膜のLC3-IIの脱脂質化の検証を迅速かつ簡単に行えるアッセイだと考えています。Autophagosome CompletionとMaturationの研究をする上で興味がございましたら是非お試しください。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局