PubMedID |
30185561 |
Journal |
Proc Natl Acad Sci U S A, 2018 Sep 05; [Epub ahead of print] |
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Title |
Insights into autophagosome biogenesis from structural and biochemical analyses of the ATG2A-WIPI4 complex. |
Author |
Chowdhury S, Otomo C, ..., Lander GC, Otomo T |
スクリプス研究所 大友研究室 大友崇紀 2018/10/05
analyses of the ATG2A-WIPI4 complex.
水島先生よりオートファジーフォーラムの存在を教えていただきまして、この度初めて投稿させていただきます。この論文ではヒトATG2AとATG2A-WIPI4複合体の全体構造(というよりは形)と機能について調べました。要点を一言で述べると、棒状のATG2Aが試験管内でリポソームをつなぐことができるというところです。以下に研究の流れを紹介させていただきます。
まず染色した試料の電顕像を単粒子解析し、ATG2Aは単量体の棒状タンパク質で、その2つの先端の一方にWIPI4が結合するということを明らかにしました。MBP融合タンパク質を用いて、ATG2Aの一次構造と三次構造の関連を調べた結果、N末が棒の一方の先端に、もう一方の先端には一次構造の中央からC末の間にあるCADモチーフあたりがあることがわかりました(C末については後述します)。N末もCADモチーフのいずれも進化上保存されているので、両先端が機能に関係している可能性が示唆されます。ATG2Aがリポソームに結合することから、電顕でタンパク質―リポソーム複合体の観察を試みました。その観察とそれにつづく解析の結果、ATG2Aがその両先端で別々のリポソームと結合し、それらのリポソームをつなぎあわせているという像が得られました。ダンベルのような形です。実際、ATG2Aタンパク質とリポソームと混ぜると、リポソームに結合し、さらにリポソームの集合を引き起こすことが溶液実験で確認できました。同様に、ATG2AとWIPI4の両タンパク質溶液とPI3Pを含むリポソームと含まないリポソームの混合溶液を混ぜると、両リポソームがつなげられることもわかりました。これは、WIPI4が結合しているCAD側先端が前者のリポソームに結合し、同時に反対のN末側先端が後者に結合することによると解釈しています。このことからATG2A-WIPI4複合体はPI3Pを多く含むオメガソーム膜とその付近の膜をつなぎとめるというモデルを提唱いたしました。ただオメガソーム付近の膜構造について十分コンセンサスがあるようではないと判断したので、対岸をどうするかかなり思案しました。最終的には、オメガソーム膜はER膜や隔離膜とつながっているというトモグラフィーのデータ(Uemura et al. 2014 MCB)を参考に、隔離膜とER膜を対岸側の候補としてあげました。その他にオメガソーム近傍に存在すると示されているATG9 vesicleとCOPII vesicleも対岸の可能性として含めました。
小さいリポソームに結合したATG2A-WIPI4複合体(ダンベル)の単粒子解析の結果(論文の図3)には大変興奮しました。リポソームがタンパク質により集合しているという電顕写真はいろいろな論文で見受けられますが、多くの場合リポソームの間に埋もれてタンパク質ははっきりと観察できません。リポソームがタンパク質に対して大きすぎることも要因の1つだと思います。今回は、ATG2Aの棒の長さが約20 nmで、小さいリポソームの直径が30 nm程と、両者が同程度の大きさであったことから、もしかしたらリポソームに結合したタンパク質が観察できるのではないかと考えました。実際に染色したサンプルを電顕で観察してみると、ほとんどのタンパク質とリポソームはアグリゲーションにより視野からなくなりましたが(グリッドに効率よく吸着しない為)、わずかに残ったものの中に細長いATG2Aらしき物体をリポソーム上に確認しました(図3の電顕画像ではATG2Aが10個もないくらいですが、同じ濃度のATG2Aタンパク質をリポソームなしで観察すると同じ面積で数百分子観察できます)。 しかし、これらの画像だけでは細長いものが本当にATG2Aだと断定するのには無理があると思われ、仮に同定が受け入れられたとしても、結合に一定の様式があるのかわかりません。そこで多少無謀とも思いましたが単粒子解析を試みました。その結果、ダンベルの中央部はATG2Aに見える程解像され、さらにマーカーとして加えておいたWIPI4(-propeller)と信じられる点状の密度が確認できる平均化像が得られました。このデータからATG2Aの両末端が膜に結合できるに違いないと考えました。関与しているアミノ酸残基の確認については、高分解能の構造情報が得られ次第変異体実験によりおこないたいと考えています(残念ながらN末端についてはそれを待たなくてもいい状況になってしまいましたが)。今後、同じような手法で他の膜結合タンパク質も可視化できるか試したいと考えています。
今回の論文投稿では、YuグループからATG2B-WIPI4複合体についての似た論文が先にAutophagy誌に掲載され(Zheng et al. 2017 Autophagy 13, 1870)、私たちは遅れてまずbiorxivサーバーにプリプリントを掲載いたしました。プリプリントではATG2AのN末とC末は棒の同じ先端にあると報告しましたが、YuグループらはC末が確認できないと報告しておりました。それを受けて、C末を同定する為の電顕実験を再度おこなったところ、最初の結果と異なり、C末ははっきりと同定できないという結果を得ました。最終の論文ではC末は棒のどちらの先端にも近づける(かもしれない)という曖昧な結論になっています。C末はフレキシブルなのではないかと推測しています。恥ずかしながら再現できなかった理由はよくわかりません。本研究でデータ取得に使用した電顕グリッドは全て私が作成しましたので、失態の責任は私個人のみにあります。プリプリントをご覧になられた方にはご迷惑をおかけし、お詫び申し上げます。
もう1つプリプリントと論文での違いにモデルがあります。プリプリントではC末近くにある両親媒性ヘリックスと思われる領域1723-1819(論文では、勝手ながら便宜上C-terminal localization region: CLRというように呼んでいます) がオメガソームとは対岸側の膜に結合するというモデルを提唱しました。しかし、論文の改訂の為におこなった追加実験でこの領域の変異をいれたタンパク質も野生型と同程度に膜を結合させるという衝撃的な結果が得られ、あっさりとモデルの修正に迫られました。最終の論文では1724-1829に相当するヘリックスを除去し、N末が対岸の膜に結合するというモデルを提唱いたしました。
このように論文の改訂によってデータは増えましたが、わからないことも増えたように思います。最終的にタイトルを当たり障りのないものに変更したりと、改訂によってむしろ論文全体としてのインパクトは下がったかもしれません。ちなみにプリプリントもアクセプト直前の原稿にアップデートしてありますが、以前のバージョンも見ることができます。最後になりましたが、中戸川先生らの酵母Atg2-Atg18複合体に関する最新の論文を拝見し、今回の私たちのin vitroのデータのみに基づいたストーリーも完全に間違っているわけではなさそうだとすこし安堵しました。今回不明なまま残された点は今後の研究で明らかにしたいと考えています。